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倒産の罠36
しばしの後、手下の二人が身を震わせながら階段を登って来る気配が感じられた。
「……真っ暗だぜ」
「サツは……?」
「……いや、誰もいねえみてえだ……」
すると、階段を塞ぐようにしてフレーム付きのポスターが転がっていることに気付いたようだ。
「もしかして……これじゃねえのか?」
「ポスター……?」
「さっきここへ来た時にはこんなモン無かったぜ」
「壁に掛かってたのが落ちたんじゃ……」
「……ンだよッ! 脅かしやがって!」
二人はホッとしたようだ。身を潜めていた僚一らにも分かるくらい大袈裟な安堵の溜め息が聞こえてくる。
「――は! そりゃそうだ。いくらサツだって、こうも早くこの場所を突き止められるはずもねえって!」
「よし、じゃあ戻るとするか」
「ああ。ホン……ッと、脅かしやがる」
男たちが地下へと戻ったのを見届けて、僚一らもまたホッと胸を撫で下ろした。
「今の二人、氷川と冰を偵察に来たヤツらで間違いねえな」
「ではやはりヤツらは丸中とその一味で確定だな」
まずは第一段階だ。
「さて――この後どうするかだが。そろそろ警視庁に二度目の動画が送られてくる頃だな。今度はリモート通話ができるようにと言っていたから、ヤツらは当分動画の前で掛かりきりになるはず」
鐘崎と周が密かに階段を降りて地下の様子を確かめたところ、通路が左右に分かれるようになっていて、鉄製の扉が確かに二箇所見つかったとのことだった。
「階段を降りた先はコンクリートの壁になっていて突き当たりだった。通路は左右に進むしかないが、扉は二つとも階段からおおよそ十メートルの位置だ。非常灯でうっすら見えた表示によると、B1東扉、B1西扉とあったのが確認できた」
「うむ、よくやってくれた。東西の扉か――。他に非常口のようなものはなかったか?」
「いや、扉はその二つだけだ。地下に非常口は無い」
「よし、後はその二つの内どちらに爆弾が括り付けられているかだが――」
階段を降りて、扉が手間側と奥側に位置しているのであれば、犯人たちが逃げることを考慮して爆弾は奥側に仕掛けられる可能性が高い。だが、実際には扉の位置が左右に分かれていて二つとも同じくらいの距離ということだから、どちらに仕掛けられているかは現段階で予測不可能だ。
「せめて東西どちらに仕掛けてあるのかが掴めればいいんだがな――」
僚一が方位磁石を確認しながらそんな話をしていると、警視庁で待機している丹羽からの連絡が届いた。
『僚一さん、ヤツらから二度目の通信が入りました。共有します』
「了解。こちらは犯人たちと爆弾を確認した。丸中一味で間違いない。人質の安全の為、俺たちは一旦犯人を逃す方向でいく。周辺の道路を封鎖して緊急配備を敷いてくれ」
『承知しました!』
源次郎と李とで持参してきたパソコンを確認すると、画面の向こうではちょうどやり取りが始まったところだった。
『金は用意できたか?』
丸中らしき声がそう訊く。対応は丹羽が買って出ていた。
『要求は理解している。だが、今この場で全額はとてもじゃないが無理だ。お前たちが乗っ取った企業をすべて立て直すには億の単位を軽く超える。兆だ――。要求をすべて呑むにしても日数を要する』
『は――! 相変わらずのご都合主義ですか! だったら構わない。全額用意できるまで待ちましょう? だがそんな悠長なことを言っていられますかね? 数日の内にはここにいるお坊ちゃんお嬢ちゃん方が干からびて死んじまいますよ?』
『待て! 他のことなら出来る限り要求を聞こう! 食料や水、長期戦になるとしたら寝具なども必要だろう』
すべて用意するから場所を教えてくれないかと丹羽は言った。
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