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倒産の罠38
冰からのメッセージを受けて僚一らは早速救出に向けて動き出した。
「よし、迅速に西扉を破って突破する。万が一鍵が掛かっていた場合は俺が銃で壊す。中に入ったら紫月は日本刀で犯人たちの衣服を斬りつけて隙を作れ! そのヤッパを見ただけでヤツらは動転するはずだ。俺と遼二はその隙をついて体術で犯人を確保。焔は他のことを気にせず冰を救出。源さんたちはこの防護シートを広げて人質を部屋の反対側へ移動させ、万が一の爆発から皆を守ってくれ!」
僚一は一通りの手順を説明し終えると、次に警視庁の丹羽に通達を出した。
「修司坊、リモート通話で冰に向かって宥める言葉を掛けながら、広東語で|焔到着《イェン ダァオ》という言葉を折り込んでくれ。それで冰は俺たちが到着したことを理解するはずだ」
そう言いながらも、『もしかしたら冰はさっきのフレーム落下で既に我々の到着を悟ったかも知れんがな』と付け加えては笑った。
リモート画面では丹羽が言われた通りに上手く話をごまかしながら周らの到着を知らせて、『君たちのことは必ず助ける、犬にも会わせてあげられるよう努力するから心配しないで待っているんだ』などと会話を繋いでくれていた。
「よし、それじゃ突入する! 皆、頼んだぞ!」
一同は丹羽が犯人たちの注意を引き付けている間に一気に地下へと駆け降りた。
一方、冰の方でも助けが到着したことを確信、丹羽との会話に大袈裟な素振りで相槌を返しながらも人質たちに向かって小声でこう囁いた。
「皆さん、僕が合図をしたら爆弾のドアからなるべく離れるように部屋の隅へ走ってください。そのまま床に伏せて頭を手で守ってくださいね!」
ほんの一瞬のことだったが、監禁されている仲間たちは驚いたようにして冰を見つめた。
それも当然か――今の今まで犬がどうのと大騒ぎをしていたこの青年が、まるで違う精悍な顔つきでそんなことを言ったものだから驚くのも無理はない。誰もが冰のことを少々頭の弱い変わったヤツなのだろうと思っていた矢先だ。けれども今の一瞬のひと言で、彼のこれまでの言動は敵を欺く為のカモフラージュだったのかも知れないと悟ったようだった。
当の冰はすぐにまた号泣まがいの演技に戻っては、丹羽相手に『助けてください!』と繰り返す。
犯人たちが彼に気を取られている隙に、冰の一番近くにいた男が後方の仲間たちに声を潜めながら作戦を話し伝えていく。――と、ちょうどその時だった。サイレンサー付きの銃が西扉の錠を撃ち抜いた気配を感じ取った冰が、「今です!」と叫んだ。
人質たちはそれを合図に夢中で立ち上がり、ドアとは反対方向の部屋の隅を目指して駆け出し、皆で互いを庇い合うようにして床へと突っ伏した。
何が起こったのかと戸惑う犯人たちが最初に目にしたもの、それは鈍色に光る長刃の切先だった。
「うわぁああああ!」
「ギャアアアアア……!」
何事だ――とも、誰だてめえら――とも言葉にすらできない内に上着やシャツのボタンを刃先で飛ばされた各々は、腰が抜けたようにして地面へと倒れ込む。と同時に鐘崎親子が体術であっという間に犯人一味を制圧。源次郎と李、劉、曹の四人で人質たちを防護シートに包んで保護し、周は一目散に冰を自らの腕の中へと抱え込んでは万が一の爆発に備える。その間、わずか数秒――僚一が意識を刈り取った丸中の手にしていた爆弾のスイッチを取り上げて制圧は完了、見事最悪の事態を防ぎ切ったのだった。
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