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倒産の罠48
一週間後――。
汐留では囮作戦任務完了の労い会が盛大に催されていた。
香港から周の家族も駆け付けて、任務に携わった皆が一堂に会する。周邸の側近や家令たちはむろんのこと、鐘崎組の面々、粟津家の人々、それに警視庁の丹羽らも顔を揃えての大々的なパーティと相成った。
「皆、此度は誠にご苦労であった」
「皆の尽力に心より感謝する」
周と鐘崎の父である周隼と鐘崎僚一が揃って労いの挨拶をし、警視庁の丹羽からも助力への礼が述べられる。乾杯を前にして皆にシャンパングラスを配って回っていた大忙しの真田を驚かせたのは、周による指名だった。
「乾杯の発声は――真田にお願いしたい」
銀のワゴンを引いてボールルームを駆け回っていた真田はびっくり仰天である。壇上でマイクを持った周に手招きをされてあんぐり状態。
「わ、私めが……でございますか……?」
キョトンと立ち尽くす真田を囲んで背中を押し、鐘崎と紫月、冰の三人で壇上へと押し上げる。あたふたとする真田を更に驚かせたのは、四人から渡された小さなプレゼントの箱を受け取った時だ。
「真田、今回も本当に世話になったな。何も知らせず、一文無しの状況でもずっと俺たちを支えてくれたこと、有り難くてならねえ。これは心ばかりだが、俺たちからの感謝の印だ」
「真田さん、いつも側で見守ってくださってありがとうございます! これからもずっと――白龍と俺のお父さんでいてください」
周と冰からそう言われて、真田は思わず熱くなった目頭を押さえた。と同時に周隼、僚一、そして会場の全員から割れんばかりの拍手が湧き起こり、真田は抑え切れなくなった熱い雫を真っ白なハンカチで拭った。
「坊っちゃま、冰さん、そして皆様……この老いぼれめに有難きお言葉……。わたしはそれこそもう何も思い残すことはございません……!」
おいおいと嗚咽しながら涙を拭う真田に、再び割れんばかりの拍手が起こる。
「何を言う、真田。お前さんにはまだまだうちの坊主共を立派な社会人に導いてもらわねばならんのだ。ここ日本での父親役は任せたぞ」
周らの実父である周隼にそう言われて再び涙――。その幸せにあふれる涙声の乾杯発声と共に、賑やかであたたかい宴となったのだった。
大パノラマの窓の外には煌びやかな大都市・東京の景色が一面に広がっている。
信頼できる仲間と家族に包まれて、誰もが幸せを噛み締める。
この仲間たちと共にあればこそ、どんな環境であれ、どんな境遇であれ、そこにはあたたかい幸せがあふれている。まさに病める時も健やかなる時も――永遠に共に在らん。
またひとつ、絆を積み重ねた皆を見守るように大都会の夜景が今宵も燦々と輝き続けるのだった。
倒産の罠 - FIN -
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