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身勝手な愛21

「郭芳さん! 郭芳さん、いませんか? お話があるんです!」  すると、今度は郭芳とは別の男が三人ほど顔を出した。その誰もが一目で堅気でないという雰囲気の怖そうな風貌揃いだ。 「うるせえ、このガキが!」 「郭芳さんは今、外出中だ!」 「痛い目見てえか、このクソガキ!」  三人が三人ともたどたどしい英語まじりだ。見た目は東洋人だが、香港の者ではないようだ。とすれば東南アジアあたりだろうか。  さすがの冰もそちらの言語には明るくない。なるべく分かりやすい英語でこう話してみせた。 「すみません。薬を返してもらえますか?」  とにかくは常備薬が必要な重鎮のものだけでも取り返せればと思ったのだ。  男たちにも一応は通じたようだ。 「薬だ?」 「はい、そうです。その薬が無いと困る方がいるんです。体力を消耗していて、もしもその方が死んでしまった――なんてことになったら、あなた方にだって不利になるはずですよ?」  男たちも片言英語が通じる程度なのか、言われていることがはっきりとは分からないようだ。だがそれなら逆手に取ればいい。 「あなた方にとっても不利だ。薬を返せ」  ぶつ切りの単語を並べ立てて冰は必死にそう訴えたが、やはり思ったようには通じない。――が、ちょうどその時だった。出掛けていたという郭芳が帰って来て、姿を現した。 「何事です! 騒々しい」 「郭芳さん! 良かった! 薬を――」  冰は敵も味方もなく、喜んだように郭芳へと話し掛けた。 「薬?」 「はい、あの……お医者様から処方されているお薬が必要な方がいるんです! 重鎮の皆さん方は体力も限界だと思うんです。せめて薬だけでも返していただけないでしょうか?」  すると郭芳はテーブルにあった袋を取り上げながらニヤっと笑ってみせた。 「薬ってこれか――」 「そうです! 返していただけませんか?」 「――は! まあいいでしょう。しかしアンタも人がいいというのか……。あんな老害たちの為に一生懸命になって。運良く私が帰って来なければ、この者たちに痛い目に遭わされていたやも知れませんよ?」  郭芳が存外すんなりと薬を渡してくれたのには驚いたが、冰にとってはあまりいい気分にならない嫌味までがオマケでついてきた。 「アンタは何も知らないだろうが、あの老害たちはその昔、焔老板を邪険に扱っていたヤツらなんですよ?」 「……え?」

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