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身勝手な愛30

「それとも――俺を掻っ攫って来たのはこのお爺さんたちを拉致った犯人に仕立てる為か? でもそう上手くは辻褄が合わねえよ? この人たちが行方不明になった時、俺は日本で周家の次男坊と一緒にいたわけだから。つまり俺にはこれ以上ないアリバイがあるってわけ。この人たちの捜索の為に俺たちも駆り出されてこの香港へやって来たんだ。俺からすりゃあ、アンタの考えてることが今一つ理解できねえのよね?」  冰の口車に乗せられたのか、はたまたこの冰が周家から逃れたいと本気で思っていることに安堵したのか定かでないが、郭芳はついぞ本心と思えることを暴露し始めた。 「いいでしょう……私の考えを話しましょう。でもその前に――あなたがあの人の元から逃げたいというのは事実なのですか?」 「あの人――だ? もしかして次男坊のことを言ってるの?」 「……そうです。あなたはあの人――周焔と結婚した妻なのでしょう?」 「妻ぁ? は――! アンタらの間じゃやっぱそんなことになってんだ?」 「……違うのですか?」  怪訝そうながらも郭芳の表情からは期待に胸を逸らせるような思いが見て取れた。 「冗談じゃないよ、まったく! 誰が妻よ! 俺ァね、見ての通り男よ、オ・ト・コ! 確かに周姓になったのは事実だけどさ、何もあの次男坊の妻になったわけじゃない。マフィアのお父様の養子ってことで入籍させられたわけ!」  冰はほとほと呆れ気味に肩をすくめるジェスチャーをすると、苛立ったようにタバコを床に投げつけては踏み消した。 「どうせ入籍させられた理由も知りたいだろうから教えてやるよ。俺はね、自分で言うのもナンだけど、バイリンガルで日本語と英語と広東語が堪能なわけ。つまり普通の人間よりは優秀なのよ! たまたま日本で次男坊の商社に就職してさ。俺も人並みに出世欲はあったから、バリバリ仕事をこなしてたわけよ。そしたら目をつけられて秘書に取り上げられた――までは良かったんだけどね。俺が使えるからって次男坊は俺を離したくなくなったんだろ? ちょうど別の――もっと大手の商社から引き抜きの話をもらって、俺があの会社を辞めてそっちに移りたいって退職願いを出したら……否も応もなく周姓に入れられちゃったわけ。その後はもう籠の鳥も同然さ! 俺がいつ逃げ出すんじゃねえかって監視まで付けられて……もううんざり! これはもう一生こき使われるしかねえのかって諦めてもいたが、有り難えことにアンタがこんないい機会を作ってくれた。俺にとっちゃアンタは救いの神ってわけよ」  分かってくれる? と、親しげな笑みを向ける。郭芳は苦虫を噛み潰したような表情ながらも、半ば呆れてしまったようだった。

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