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陰謀5
丸の内、ホテル・グラン・エー――。
時刻は午後の八時を回った頃だった。粟津家の帝斗に融通してもらい、一行は最上階にあるプライベートスイートで例の親子と対面を果たすこととなった。同行者は周と側近の李、劉、医師の鄧に鐘崎の男五人だ。帝斗は親子の到着を待って裏口から周らの待つ特別室へと案内してくれるお役目を引き受けてくれた。
彼らを待つ間に男五人は対応についての談義に真剣だ。
「すると――もしもその息子というのが本当に氷川の子供だとした場合、怪我で意識を失っていた一週間の間にできた可能性以外考えられないということか……」
鐘崎が当時の様子を尋ねている。
「そうなろうな。俺は意識を取り戻してから後のことはしっかり覚えているからな」
だが、当時その女はまだ十五、六だったはずで、確かに彼女もその家の両親と一緒になって世話をしてくれたという記憶はあるが、恋愛めいた感情を感じた覚えもないと言って周は首を傾げていた。
「あの娘にそういった感情があれば気づいたはずだ。怪我が治癒して村を離れる際にも特には名残惜しそうな様子もなかったし、親父や兄貴と共に礼に訪れた時も俺や兄貴に気があるふうには思えなかったがな」
それ以前に意識のない怪我人相手に子供を作るような行為を当時十五そこらの娘が成し得たかどうかも怪しいものだ。
「ふむ――まあ仮に周家からの礼金が目当てだったとして、親がかりでそういう工作を行ったというのも無きにもあらずだが、そうであれば子供ができた時点で何らかのコンタクトがあってもおかしくないはず」
鐘崎もまた、何故十五年も経った今になって突然そんなことを言ってきたのかと渋顔でいる。
「念の為、鄧が親子鑑定に必要な物を採取してくれる用意はして来たのだがな」
「親子鑑定か――。確かに事実をはっきりさせるにはこれ以上ないが、万が一にも黒となった場合だ……」
それは誰もが危惧するところといえる。だが周は意外にも落ち着いた考えでいるようだ。
「その時はその時だ。息子が俺の子供だというのが紛れもない事実なら認めるしかなかろうが、とにかくは今からやって来る女にどういった経緯でガキをこしらえることになったのかを詳しく尋ねてからだな」
普通なら動揺して当然のところ、意外にも周がここまで落ち着いていられるのは、裏を返せばそんな事実は無かったという絶対の自信があるからなのかも知れない。
女との話し合いの間は隣のコネクティングルームで劉が息子の相手を買って出てくれることとなった。いずれにせよそんなドロドロとした大人の事情話を子供に聞かせるのは気の毒だからだ。
そうこうしている内に帝斗から連絡が来て、母子が到着したという。誰しも緊張の面持ちで迎え入れたのだが、女はともかく、その息子というのを見て全員が驚かされることになるとは思いもよらなかった。なんとその息子というのが周によく似た面立ちをしていたからだ。
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