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陰謀9
一方、鐘崎と紫月の方では早速に当時の経緯を今一度詳しく当たってみようと動き出してくれていた。鐘崎はちょうど台湾で任務中の父・僚一と合流することを決め、十五年前の村を訪ねてみることにしたのだった。その間、紫月は汐留に仮住まいすることに決め、周の社を手伝いながら冰の精神面での支えとなるべく側に居ることにする。事態が事態なので周も冰もやはりどこか気が落ち着かない中、皆の心遣いを有り難く感じていた。
その汐留では鄧が親子鑑定で奔走の傍ら、李と劉もまた別の角度から当時のことについて調べを進めていたようだ。鐘崎と李ら、双方の調べで何か手掛かりが掴めることがあるかも知れない。周自身も香港の兄・周風にコンタクトを取り、当時のことを一から思い出さんと試みていた。
夜、冰が風呂に入ったのを見届けると同時に周は自室の書斎に向かい、兄の周風とのリモートを繋ぐ。風もまた酷く驚いたようだった。
『――ふむ、にわかには信じられんな。あの時の状況を一番良く知っているのはこの俺だ。曹や李が我々を見つけてくれるまでの間はお前と二人きりだったのだしな。だが――正直なところそんな事実があったとは思えん』
「俺も同感です。もしもあの娘が俺たち二人のどちらかに好意を寄せていたとすれば、その時点で何となく気がついたはずだ。そんな印象は受けなかったし、仮にあの娘が言うように俺が意識朦朧の中で強姦まがいのことをしたというのが事実なら、意識を取り戻した後で娘は俺を恐怖に思ったはずだ」
『お前の言う通りだな。俺もそういった素振りは見受けられなかったと記憶しているぞ。俺たちが気がついた後もあの家族は親身になって世話をしてくれた。娘も同様だ。特に俺やお前を怖がっているふうでもなかったし、かといって好意や恋情も特には感じなかった。心底人の好い――というのだろうか、そんな感じで清々しく世話をしてくれた覚えしかないな』
その直後に曹と李らが駆け付けて来たわけだが、彼らも当時の娘の素振りがおかしいと感じたようなことは言っていなかった。彼らは皆人間観察力に長けた精鋭だ。世話をしてくれた家族の様子がおかしければ気がついたはずといえる。
『焔、やはり何かの策略か罠――と考えるのが妥当ではないか? 仮に本当にお前に無理強いされたというなら、当時娘があのように朗らかにはしていられなかったはずだ。例え何をされたかその当時はよく分からなかったとしてもだ。人間の本能でお前に対する恐怖心や嫌悪感は感じたろうからな』
風は女の言うことよりも陰謀を疑うべきだと言った。
「今、カネと僚一が当時の村に向かってくれています。念の為、鄧が親子鑑定を試みてくれているのですが――。気になるのは女が連れていた子供のツラです。正直、見た目は俺とよく似ていて、他人が見れば親子だと信じられるレベルのものだった」
『……そんなに似ていたのか?』
「――今、画像を送ります。客観的に兄貴の第一印象を教えて欲しい」
周が共有したのは、ホテルで李らが隠し撮りした親子の動画だ。それを見て、風も女の顔には見覚えがあるようだったが、息子の方も確かに周とは似ても似つかない――とは言い切れないような印象を抱いたのか、考え込むような渋顔を見せた。
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