1068 / 1208

陰謀16

 兄・周風の言葉通りそれから二日もする頃には次々と状況が明らかになってきた。  まず風の側近、曹来の調査によって子役のチャンサンが映画に出演した際の芸能事務所が割れた。それによると子役の父親も俳優であるらしく、同じ映画に出演していることが分かった。役柄的にはエキストラに近い端役だそうだが、この父親の方は元々俳優で食べているらしい。その伝手からオーディションを受けた息子が王子役に抜擢されたのだそうだ。 『あの子役に父親が存在するということは、単純に考えればお前の息子ではない――ということになる。ただし、その父親というのが本当に血を分けた実の親であるかは今のところ何とも言えん』  つまり、養父という可能性も考えなければならないということだ。 『お前の言うようにあの息子の名がアーティットだとするなら、チャンサンというのは芸名か――もしくはアーティットの方が偽名かも知れんな。今、曹来が引き続き父親の私生活について調べを進めている』 「すまねえ、兄貴。助かります。こちらでもちょうどカネと僚一から知らせが届いたところです。例のスーリャンが住んでいた村を訪ねてくれているんですが、どうやら一家はあの後すぐに都市部へ移住して村を出て行ったそうです」  周らが父の隼と共に礼に出向いたすぐ後だったそうだ。やはり大金を手にしたことで過疎地の村から出て行くことにしたのだろうか――。 「ところが二年もしない内に両親だけがまた村へと舞い戻って来たそうです。村人の話では、出て行く時とはえらく変わり果てた――というよりも、酷くやつれた様子で戻って来たとかで、移住先の都市生活には馴染めなかったようです」 『……そうか。それで――そのご両親は今も村で暮らしているのか?』 「いえ――カネの話だと、村に戻って数年後に二人とも病で他界したそうです。娘はそのまま都市部に残ったと見られますが、カネたちがこれからその移住先へ飛んで更に調べを進めてくれることになっています」  一家が移り住んだのは上海だったそうだ。 『そうか――。やはりあの時我々が渡した礼金が移住のきっかけとなったわけだな……』  まあ礼金を何にどう使おうと一家の自由だが、泡銭の感覚に浮かれてしまったのだろうか。結局は慣れない生活環境に馴染めずにやつれて村へ舞い戻り、しかも病で他界したなどと聞くと、残念な気持ちにもなろうというものだ。  一旦リモートを終えて少しした時だった。鐘崎から再び報告が入って、今度は少々驚くべきことが告げられた。 『氷川、こちらでは少々気に掛かる事実が出てきたぞ。一家が村を離れる際だが、どうやら同じ村に住んでいた若い男が一人、同時期に村を出ていることが分かった』  鐘崎によると、その若い男というのは当時二十歳くらいだったそうだが、村での評判はあまり良いものではなかったらしい。性格は凶暴で怠惰、村人たちからも敬遠されていた存在だそうだ。 『何かにつけて威張り散らしたり、村人を脅して暴力を振るったりと、いわば皆は腫れ物に触るような形で関わり合いになることを避けていたようだな。だからそいつが村を出て行ってくれて正直なところ安堵したと口を揃えている』  問題は、その男が一家と同時期に村を後にしているということだった。 『もしかしたら一家が手にした周家からの礼金が目当てだった可能性も高い。一家を脅して金を巻き上げたとも考えられる。その辺りのことをもう少し詳しく洗ってみたいと思う』  鐘崎らはそのまま移住先の上海へ飛んでくれるそうだ。

ともだちにシェアしよう!