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陰謀37

「それで、ダーウバンという男についてだが。風と焔の命の恩人であるスーリャン一家を尋常ならぬ苦痛に追い込み、此度は焔に息子がいたなどと偽ってお前たちを掻き乱した悪事を放置することはできん。監獄にぶち込んで一生そこで缶詰にするという手もあるが、それだけでは私の腹の虫が収まらん。即刻あの世送りにしても構わんが、そう易々と楽にしてやるのも虫が好かん。ヤツのような極悪非道者には更なる極悪非道をもって、生涯生き地獄に住まわせるのが筋と思うが――」  さすがの隼にも今度ばかりは温情をかけて更生させるという考えは無いようだ。周も兄の風もまた、父の意向に同意した。 「私とて同じ思いです。当時まだ年端もゆかぬ娘だったスーリャンを踏みにじり、彼女のみならずご両親の人生をも早々に断つきっかけを作ったクズです。ダーウバンのような輩には例え温情をかけたところで再びどこかの誰かが泣かされる羽目になるのは目に見えている」  あの類の人間に自分がどれほど酷いことをしてきたのかを分からせる術はひとつ――世の中にはそんな自分よりももっと悪どく恐ろしい人間がいて、それら恐ろしい者たちによって自分がこれまでスーリャンらに課してきた悪事以上のことをされてようやく思い知ることができるかどうかといったところだろう。 「よろしい。ではダーウバンについてはこの私が引き受ける。二度とスーリャン一家やお前たちの目に触れることがない場所へ――生きながらにしてのあの世へ葬ってやることにする」  隼はあとは任せろと言って、息子たちはじめ皆の労を労ったのだった。  香港の裏社会を治める頭領は人望にも厚く、時に甘いと言われるほどに人情にあふれた人物と、内外からも認識されている。一方では称賛の声も聞こえるが、そのまた一方では甘ちゃんだと嘲笑されることも事実だ。だが、その有り余る人情温情を掛ける価値もない、心底悪といえる輩に対しては非常に厳しい制裁を下すこともあるのだ。また、その方法もよく心得ている。ただ単に甘ちゃんというわけでは決してないのだ。  ダーウバンにとってこの先の人生は、それこそ葬られてしまった方がどれほど楽だったかと思えるような苛烈な道が待っているだけである。  これが、身勝手な理由で真っ当に生きていた人々を陥れ、苦渋を味わせた男に対する行く末である。と同時に、わずかに足を突っ込んだだけで裏の世界を牛耳った気になって、本物の裏社会を治める者を舐めた罰といえた。

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