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三千世界に極道の涙3
町永汰一郎とは今から二十年程前に起こった、とある事件がきっかけで知り合った。源次郎がまだ若かった頃だ。
「彼と知り合ったのは依頼に関する調査で出掛けた帰りでした。ちょうど夏祭りの花火大会が行われていて、駅までの道は混雑して思うように進めないほどにごった返しておりましてな。そんな中、ある出店の前で揉め事が起こっているところに出くわしたのです」
揉めているのは家族連れが四組ほどと、相手は粋がった感じの少年数人だったという。すれ違い様に財布を掏られたとかで言い争いになっていたようだった。
「家族連れの方は同じグループらしく、四組ほどおりましたが全員が顔見知りのようでした。その内の一人が不良少年たちに財布を掏られたと言って、返せと怒鳴っておりました。連れていた子供たちは皆十歳くらいでしたから、子供つながりで親たちも懇意にしていたようです」
母親たちはそれぞれ自分の子供を抱き抱えながら少し距離を置いて遠巻きに見ていたそうだが、父親たちは四人――当時まだ三十代くらいで、まだまだ血気盛んだったのだろう。相手の不良少年たちも四、五人いたようだが、まさか負けるとは思わなかったようである。
「多少酒も入っていたのかも知れません。双方どちらも引かずに、まるで周囲の野次馬たちに注目を浴びているのが誇らしいとでもいうようにして、ついには取っ組み合いが始まりました。このままでは怪我人が出ないとも限らない状況でしたので、私は仲裁に入りました。ところが不良少年たちはナイフを所持していましてな……」
皆で刃物を振り回しては大乱闘寸前にまで発展してしまったのだそうだ。源次郎が応戦して何とか三家族を救ったものの、一人の男が刺されてしまい、それに驚いた彼の妻が駆け寄ったところへ運悪く屋台で使用していた揚げ物の鍋にぶつかり引火、夫婦はそれに巻き込まれて命を落としてしまったのだそうだ。
「それが町永汰一郎の両親でした。二人の出身地は東北で、汰一郎には祖父母がいたのですが、引き取ることを拒否されましてな。どうやら彼の両親は結婚に反対されたのを押し切って、駆け落ち同然で上京してきたようでした」
天涯孤独となってしまった汰一郎はその後施設に預けられることになったわけだが、それを不憫に思った源次郎は毎月の生活費の足しとして、施設を通し汰一郎に金銭的援助を続けてきたのだそうだ。その施設も、これまで馴染んできた同級生らと離れなくて済むようにとの思いから、転校せずに今までと同じ小学校に通える範囲で源次郎が探したとのことだった。
「四家族の内の……汰一郎の両親だけを救えなかったことが悔やまれてなりませんでした。仲裁に入った私にも責任はあると思いましてな。親代わりというわけではございませんが、金銭的な援助の他に何かあった時の連絡先として、私は汰一郎の後見を引き受けました。修業のその日までは施設を通して金を振込み続けましたが、彼が就職を機に施設を出た後は連絡も途絶えてしまいました」
それが今日、汰一郎の方から訪ねて来てくれた――と、まあそんなわけだったそうだ。
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