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三千世界に極道の涙5

「いずれにせよ目的は復讐……ってわけか。で、どうするんだ? 仕掛けられた盗聴器はそのままにしとくってことだけど」 「明日の朝飯の時に組員たちにも通達を出しておく。しばらく第一応接室の付近では当たり障りのない会話を心掛けるようにして、こちらが盗聴器に気付いていないと思わせることにする。特に欲しい情報が拾えないと分かれば、おそらくは近日中に汰一郎というヤツが盗聴器の回収を兼ねて再びここへやって来るはずだ」  現段階でできることといったらそれくらいであろう。鐘崎は念の為、当時の少年グループがどの程度の刑を食らって、今現在どこでどうしているのかということを調べてみるつもりだと言った。 ◇    ◇    ◇  新たな事が動き出したのはそれから一週間が過ぎた頃のことだった。汰一郎の件とは直接の関係はなかったものの、なんと以前に知り合った地下の遊郭街を取り仕切る三浦屋の伊三郎から依頼の相談を受けることとなったのである。 「伊三郎の親父っさんからウチに正式の依頼? また何かやべえことでも起こったってのか?」  組最奥の若頭専用事務所で事の次第を聞いた紫月が驚いたように瞳を見開く。 「何でもここひと月ばかりのことだそうだ。タチの悪い客が集団で訪れるようになったとかでな。芸妓らの態度が気に入らないと怒鳴り散らすわ、料理の味がなっちゃないと文句をたれるわ、店中に聞こえるような大声で脅しを口にされて困り果てているらしい。そいつらが居座るせいで、他の客も怖がってここ半月ほどは寄り付かなくなっちまったとか」 「タチの悪い客か……。もしかしたら単に酒癖が悪いとかじゃなく、何か別の目的を持ってのことなのかね……」 「かも知れんな。伊三郎の親父っさんの話では荒らしに来るのは毎度同じメンバーのようだが、各置屋をまたいで暴れ回るそうだ。この前は花魁付きの禿が怪我を負わされたとかでな。そいつらについて調べると共に、見回り兼ねてウチの組にしばらく常駐してくれねえかと――」 「常駐か……。伊三郎の親父っさんがそこまで言い出すからには、かなり切羽詰まってるってわけか。けどよ、例の事件が落着して以来、あの地下街には警察――つか番所っつったっけ? 警視庁の丹羽さんたちの監視下で街の治安維持に警察関係者が常駐することになったんじゃなかったか?」  確かにその通りなのだ。そもそもあの地下街ができた時分は番所と称して交番のような施設も設置されていたわけだ。岡場所の子孫たちによって街を乗っ取られてからは、その番所も追い出されてしまったわけだが、事件が片付いて街に平和が戻った今では、番所も戻ってきているはずなのだ。 「――といってもな。番所に詰めているのは警官が二、三人ほどだそうだ。すべての案件に駆け回るには人手が足りないのは事実らしい」  まあ、これ以上騒ぎが大きくなるようであれば、大々的に警察に介入してもらう必要も出てこようが、現段階では酔っ払いの揉め事程度で片付けられているのだろう。

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