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三千世界に極道の涙12

 鄧が書き出したリストはこうだ。  二十年前:  夏祭りの屋台付近で高校生の不良少年グループと四家族の揉め事が勃発。  当時十七歳だった代田憲が町永汰一郎の父親をナイフで刺し、母親が庇いに入るもその衝撃で屋台の揚げ物鍋が引っくり返り、引火して火災が発生。それにより町永夫妻が死亡。息子の汰一郎は当時十歳の小学生だった。  被害者側のその後:  汰一郎には東北に祖父母があったが、両親が駆け落ちで上京した為、誰も彼を引き取る者はいなかった。天涯孤独同然となった汰一郎は、源次郎が口利きした施設で暮らすこととなる。  その後、汰一郎には彼が修業する日まで源次郎から毎月の生活費が援助された。  加害者側のその後:  代田憲は傷害の罪で少年刑務所に入れられるが、短期間で出所。成人後は父親が頭取を務める見晴銀行に就職、営業職に就く。 ――――――――――――――――――――  二十年後(現在)  町永汰一郎、三十歳。大空証券に入社後、営業職に就く。  代田憲、三十七歳。見晴銀行頭取の息子として同行に就職、営業を担当。  大空証券と見晴銀行は取引先として懇意にしていた為、二十年前の加害者(代田憲)と被害者(町永汰一郎)が偶然にも再会することとなる。  町永汰一郎は取引先の接待を理由に代田憲を地下の会員制花街に紹介する。  代田憲の飲み代はすべて町永汰一郎が支払っていた。  代田憲が悪友を連れて地下街を訪れるようになり、傍若無人の振る舞いを繰り返すようになる。  町永汰一郎が源次郎を訪ねて、これまでの礼を口にするも鐘崎組応接室に盗聴器を仕掛けて帰る。その際、近々結婚を予定していると報告。  町永汰一郎が再び源次郎を訪ねて、地下街で暴れる代田憲らをどうにかして欲しいと助力を願い出る。理由は、結婚相手が地下街の最上屋で御職を張る芸妓の涼音であることから、彼女に危険が及ぶのを危惧してのことらしい。極道鐘崎組で番頭をしている源次郎にならば、無法者相手の案件でも力になってもらえると思った――とのこと。 「――と、ここまでが実際に起こった経緯ですね。つまり動かない事実です。今度はここに誰のどんな思惑が絡んでこうなったのかをひとつずつ想像していきましょう。皆さんそれぞれ思ったことを率直に述べてみてください」  鄧を中心に皆で今書き出したリストを囲みながらその時々の彼らの行動と心境を想像していこうというのだ。まずは鐘崎が思うところを述べた。 「ではまず汰一郎からだ。両親を失った彼は祖父母にも引き取ることを拒まれ天涯孤独同然となった。当時十歳の子供には相当辛かっただろうな」  そう切り出した鐘崎に続いて今度は紫月が想像を口にする。 「けど、その後すぐに源さんが親身になってくれて施設を紹介してくれた。毎月の生活費も欠かさず援助してもらえた。――このことから汰一郎は源さんに対して有り難えって思いが芽生えたんじゃねえか?」  つまり汰一郎にとって源次郎は『良い人』であり、自分の味方をしてくれる頼れる大人という意識になったのではないかという。それについては冰も同調した。 「そうですよね。俺もこの汰一郎さんと同じ年頃で両親を失いましたが、黄のじいちゃんと白龍のご助力のお陰で今日までこうして生きてこられました。きっと汰一郎さんも源次郎さんに恩を感じると共に、頼りに思っていたのではないでしょうか」  同じような境遇に育った冰ならではの意見だ。

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