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三千世界に極道の涙15

「だとすると……どうなるわけ?」  紫月が不安そうに眉根を寄せる。その肩を抱き寄せながら、鐘崎もまた焦燥感をあらわにした。 「仮に汰一郎が源さんに逆恨みを抱いていたとして――代田と源さんをあの地下街で鉢合わせにさせてどうしたいってんだ……。まさか源さんに代田を始末してもらおうなんて思っているんじゃあるめえな」  それを聞いて周が続ける。 「仮に鄧の言う逆恨みが当たっていたとしても――だ。おそらくだが、汰一郎の中で源次郎氏は『悪人』という括りではないはずだ。助けてもらえなかったという逆恨みがあるとしても、頭では『この人は信頼するに足る善人だ』と理解しているはず。それでも尚、気持ちの上では『何故あの時自分の親だけ救ってくれなかったんだ』という思いが勝って、チグハグな行動に出ているのかも知れん」  当の源次郎にとっても、少なからず後悔と自責の念が拭えずにいるのかも知れない。  重い仮定に場が静まり返る。 「源さんはおそらく……汰一郎に頼まれたからにはどうにかして力になってやりてえと考えるだろう。例の地下街に行って暴れている代田のツラを見れば、ヤツが二十年前の犯人だと察するだろう。もしかしたら後悔と怒りから代田を成敗しようと考えるかも知れん」  むろんのことそれが殺害でないにしろ、代田が多少でも怖い思いや痛い目を見れば、汰一郎にとっては溜飲が下がるといったところなのか――。 「まさかそうなるようにと汰一郎が裏で仕組んだなどとは……源さんは夢にも思うまい――」  こうなれば何としてでもとめねばならない。 「万が一にも源さんが代田に手を出せば、傷害事件として最悪はパクられる可能性もゼロじゃねえ」  鐘崎らはすぐに地下遊郭街へと向かうことにした。 ◇    ◇    ◇  そうして夜がやってきた。 「源さんには組の留守番を任せてきた」  ここで源次郎と代田を鉢合わせるわけにはいかない。組の留守番を預ければ、源次郎がこの地下街へ来ることはないとの思いから、わざと留守を預けてきたのだった。  とにかくは代田らが姿を現すまで三浦屋伊三郎の会所で待機させてもらうことにする。今宵は事情を聞いた紫月の父親の飛燕が綾乃木を助っ人として送り込んでくれた為、体制は万全といえた。  正直なところ鐘崎に紫月、周に綾乃木、そして鐘崎組組員らが顔を揃えていれば素人が酒の席で暴れるのをとめるくらいは朝飯前である。代田らを制圧した後、汰一郎に真の目的を聞き出せばいいわけだ。  しかしながら暴れると分かっていて芸妓らを座敷に上らせるのは気の毒だ。ついこの前は花魁付きの禿までが怪我を負わされたことで、伊三郎としては女たちがこれ以上無体な目に遭うのを見ていられないと言って肩を落としている。 「だったらさ、俺が芸妓に――つか、また花魁にでも変装するか? 御職の涼音が風邪でも引いたことにしてよ、代わりにお座敷担当させていただきますとでも言やぁ疑われずに済むんじゃね?」  ふと、紫月がそんなことを口走った。

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