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三千世界に極道の涙17

「なんでい……いったいどうなってやがる」  最上屋の主人にも協力してもらい、今宵は御職の涼音が座敷に上がれない詫びとして、せめても楽しんでもらおうとの思いでこのような宴を用意したのだと説明する。代田にしてみれば、自分がケチを付ける前に先手を打たれたと思ったようだが、本格的な賭場の設えと群を抜く美しさの花魁を目の前にして気分が上がったようだった。 「ふぅん、この店もやりゃあできるじゃねえよ」  正直なところ賭場など初めてだが、興味は引かれているようだ。相変わらずのデカい態度はそのままだが、とにかくは珍しい賭場で遊ぶことに頭がいっている様子で、存外素直に賭場師の前へと腰を落ち着けた。 「あんたが壺振り? ふーん、今の時代にこんなことができるヤツがいるたぁねえ」  仲間たちにも賭けに参加するように言って、あっという間に席が埋まった。  冰と紫月の側には周や鐘崎らが陣取っていたものの、普段の強面の雰囲気は微塵も見せずにおとなしい紳士を装っている。素を出せばその姿を見ただけで圧を感じさせる彼らだが、そこはプロだ。わざと優男を装うくらいはお手のものなわけだ。ただでさえ普段とは違って鐘崎に周、綾乃木、春日野といった男連中が座敷を埋めているからには、ここで地を出して代田らに腰を引かれては元も子もないからである。  案の定、代田らはこちらに対して警戒心は持っていないふうである。 「へ! おもしれえ。時代劇みてえだな」 「確かにおもしろそうには違いねえけどよ。もしかして賭け金も俺らが出すのか?」  連れの男たちがそんなことを口にしたが、当の代田からは少々驚くような言葉が飛び出して、鐘崎らは顔には出さないものの、内心では驚きを隠せなかった。 「は! 構うこたぁねえ。どうせ金はいつものように町永にツケりゃいんだ。せっかくの賭場だ。賭け金無しでやるなんて面白みがねえだろー?」  そしてこうも続けた。 「なーに、勝ったらその金は当然俺らのモンさ。負けても町永の払いが増えるだけだ。存分に楽しませてもらおうじゃねえの!」 「町永様様だな!」 「ホント! あの野郎、ちょっと脅せばいくらでも出しやがるからなぁー!」  ガハハハと男たちは笑い、実際の掛け金はツケで払うと言い出した。 (なるほど――な。そういうことか)  面と向かって座敷に上がったことで段々と代田らのやり口が見えてきた。芸妓たちからもこれまでの払いはすべて汰一郎が持っていたと聞いていたが、事実だったというわけだ。この調子だと、飲み代の他にも何かにつけて汰一郎から巻き上げているやも知れない。鐘崎らは平静を装いつつも引き続き様子を見ることにした。

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