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三千世界に極道の涙21
ところが――である。
一向に厠からは出てこないことを怪しんだ組員たちが調べに入ったところ、代田は煙のように姿をくらましてしまったというのだ。
「何だとッ!? いったい何処へ消えやがった……」
鐘崎らはとりあえず座敷に残っている代田の仲間たちを縛り上げると、
「悪いがてめえらは代田のカタだ。しばらくそうして辛抱していてもらおう」
組員たちを見張りに置いて、皆で代田の行方を追うことにした。
「大門を出れば分かるはずだ! そっちは伊三郎の親父っさんに任せるとして、俺たちはヤツを捜すぞ!」
地下とはいえ、こうなるとこの街は広い。鐘崎らが必死に捜索を続ける傍らで、当の代田の方でもまた意外なことになっていた。
それは代田が座敷を出て厠へと向かった直後のことだった。
「代田さん! 代田さん」
小声で呼び掛けられ、
「誰だ――」
身構えた代田を待っていたのは厠の個室から顔を出して手招きしている町永汰一郎だった。
「町永……! 貴様……」
「しーッ! 静かに! いいから入ってください」
個室へ引っ張り込まれ、代田は目を吊り上げた。
「てめえ……来てやがったのか……。こんなところで何してやがる」
「あなたを助けに来たんですよ」
汰一郎は声をひそめて言う。
「助けに来ただ?」
「あなたがいた座敷の連中はヤクザです。賭場だ何だと言っていますが、このままではいいように金を吸い上げられるだけですよ」
「ヤクザだって……? じゃああの壺振りとか見張りの連中もか?」
「それだけじゃない。あの花魁も本当は男性です」
「はぁッ!? 冗談だろ?」
「嘘じゃありません。極道鐘崎組というところの一員です。もう座敷に戻ってはいけません。抜け道を案内しますので、一緒にここから逃げましょう!」
「抜け道って……お前……」
「涼音に聞いて知っているんです。この厠からこっそり外へ通じる抜け穴があるんですよ」
「マジか……。ってかよ、何でヤクザが賭場なんか開いてんだ?」
「それは後で説明します! とにかく行きましょう。話はそれからです!」
「お、おう……」
こうして代田は汰一郎に導かれるまま最上屋から消え失せてしまったのだった。
一方、鐘崎の方には父の僚一から連絡が入ったところだった。海外での仕事を終えて、つい先程帰宅したらしい。電話の向こうでは僚一が驚くような報告をしてよこした。
『俺の方でも一連の事件についてちょいと調べてみたんだが、意外なことが判明したぞ』
鐘崎は父の僚一が海外へ出張中であっても、日に一度は仕事の報告方々必ず連絡を入れている。そんな中で今回の源次郎と町永汰一郎のことについても逐一経過を話していたのである。
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