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絞り椿となりて永久に咲く6

 正直なところ、当時は憧れだけだった。少しでも彼と近付きになりたくて、武道繋がりを理由にしょっちゅう彼のクラスを訪ねていたのも事実だ。卒業してしまう時は寂しく思ったが、それも時の流れと共に薄れていった。  だが先週、偶然にも駅前で再会した。その時から三春谷自身説明のつかない焦燥感とでも言おうか、奇妙な感情が沸々とし出したことに戸惑いを隠せずにいたのだ。  もう一度会ってゆっくり話がしたい。綺麗な顔を惜しげもなくクシャクシャにして笑う、その笑顔に触れていたい。  そんな思いを抑え切れずに、気付けばこうして彼の家にまで足が向いてしまったのだ。  自身がこの秋に結婚を予定しているのは本当だった。相手の女性は職場で出会って心動かされた年下の可愛い彼女だ。紫月に邂逅した先週までは普通に幸せだと思っていた。正直なところ、何が何でもこの女性と生涯を共にしたいというよりは、人生なんてまあこんなものかなと思って満足していた。取り立てて心躍るわけでもないが、かといって不満もない。結婚して子が出来て、その子の運動会で父兄競技なんかに参加したりしたら楽しそうだな――漠然とそんなふうに思ってもいた。  ところが先週、駅前で偶然に再会したこの紫月を目にした途端、そういった平穏な幸せの感情を遥かに裏切るような強い衝動に駆られてしまったのだ。  ドキドキと心拍数が上がり、何が何でも手に入れたい、側で見つめていたい、声を聞いていたい、一挙手一投足を肌で感じていたい――そんな強い欲望が身体中を駆け巡り、じっとしていられないほどにソワソワとし、自分が今何をしているのか分からないくらいに心は高揚してとまらなかった。意思や思考以前に身体が勝手に動いてしまい、気付いた時には道場を訪ねていた――と、まあそんなわけだ。  紫月は訪問を喜んでくれているし、師範である父親や、一番最初に玄関で迎えてくれた綾乃木という男も交えて皆で茶をしようとまで言ってくれている。気さくな性質は相変わらずで、自ら茶を淹れてくれて、縁側に座れよと勧めてくれる。  その声を聞くともなしに聞き流しながら、三春谷の胸中は高鳴る高揚と少しの戸惑い、後ろめたさ、それら様々な感情でぐちゃぐちゃに揺れていて、視線は挙動不審というくらいに定まってはくれなかった。  そんな三春谷が我に返ったのは、茶を差し出す白魚のような手にキラリと光る細い指輪を見つけた時だった。左手薬指にはめられた銀色のそれは明らかに結婚指輪だろう。聞かずとも分かる。それを目にした瞬間に、これまでの高揚や動揺が一気に引いていくのを感じていた。 「あの……紫月さん、それ……! もしかして紫月さんも結婚された……スか?」  じっと薬指から視線を外せないまま、震える声を抑えるようにそう訊いた。

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