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絞り椿となりて永遠に咲く21

「姐さん――今のお電話の相手、例の三春谷という後輩の方ですね?」 「春日野……! ああ、うんそう。ったく何考えてやがるんだか」  しようもねえヤツだなと苦笑する。 「今、表の様子を見て来たんですが、少し行った先の路地に車がありました。おそらく社の営業車と思われますが、乗っていたのはその三春谷さんでした」 「…………!」  やはり自分たちを見張っていたのか。 「そっか……。まあこのタイミングでかけてくるってことは、そうじゃねえかなとも思ってたんだが」 「彼はこちらが思っている以上に少々厄介かも知れません。姐さんのおやさしいお気持ちはお察ししますが――このことは若にご報告すべきかと存じます」  春日野の立場からすればそうあるべきだろう。紫月もまた、そこのところは承知していた。 「そうだな。黙っておいて遼を不安にさせるのは良くねえしな。俺から話しておくよ」  とはいえ結局春日野からも報告は上がるだろうが、鐘崎に心配を掛けまいとした挙句、隠し事をするのは紫月としても本意ではない。  その夜、経緯を聞いた鐘崎は、先日の牽制がまったく効いていなかったことに頭の痛いことだと思ったようだ。だが、確かに放置していいことでもない。かといって再度似たような苦言を呈したところで、あの三春谷が素直に聞き入れるとも思えない。出方を待つしかないが、悠長に構えていていつぞやのように紫月に危険が及ぶのは絶対に避けねばならない。ただ、現状では紫月の警護をこれまで以上に固めるくらいしか手立てがないのも実のところだ。鐘崎は春日野に加えて、若い衆をもう二人ばかり見繕うことに決めたのだった。  その後、紫月には極力邸から出ないようにしてもらい、自治会などでどうしても用事がある際には護衛役として新たに橘と徳永が抜擢された。幹部の清水は鐘崎の依頼の仕事でも補佐役としての任を負っているので、幹部補佐である橘が名乗りを挙げたのだ。また、徳永は春日野付きの舎弟だが、体術面でもなかなかに頼れるそうなので、三人体制で護衛を任せることになったのだった。  一方、三春谷の方でも思うようにならないことに焦れまくっていたようだ。 「クソ……ッ! 鐘崎のヤクザ野郎……。あいつさえいなければ紫月さんだってもっと俺の話をちゃんと聞いてくれるだろうに」  紫月本人からもう電話をかけてくるなと言われたショックは想像するよりも遥かに大きかったようだ。  秋に控えた結婚式のことなど当に頭から消え去っていて、考えることといったら紫月のことばかりだ。よもわくば結婚自体を取り止めてもいい――三春谷の思考は既に常軌を逸し始めていた。

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