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絞り椿となりて永遠に咲く39

 一方、警視庁では丹羽らによって三春谷の取り調べが進められていた。  家宅捜索の結果、数々の動かぬ証拠を突き付けられた三春谷は、意外にもあっけなく観念するに至ったようだ。  ネットで上坂を雇い、遊歩道にて待ち合わせさせたのも、鐘崎らを解体現場の近くに誘い込む為だったそうだ。あの遊歩道へは車で乗り入れることができないことから、鐘崎が少し離れた大通りに車を待たせるだろうことも見込んでいたらしい。解体現場のビルに連れ込んだ手口はドラマの録画から取った暴行シーンの音声で、鐘崎らが助けに飛び込んだのを見計らって、自分自身で部屋に鍵を掛けたことを認めた。今回の発破解体に三春谷の勤める建設会社も名を連ねていたことから、解体現場の古ビルの小部屋の鍵もこっそりと入手できたとのことだった。  しかしながら、丹羽らが驚かされたのは犯行の動機だったそうだ。三春谷の供述によると、紫月を鐘崎という男の呪縛から救い出したいが為の犯行だったとのことで、当の紫月本人からも鐘崎による日常的な暴力に遭って疲弊しているという相談を受けていたのだと主張したらしい。  丹羽は鐘崎のことは若い頃からよくよく知っているし、彼が紫月をどれほど大切にしているかも承知だ。罪を軽くする為だとしても、三春谷という男のあまりのデタラメさ加減に怒りを通り越して呆れてしまうほどだった。  そんな三春谷が何と言い訳をしようが、捜査員たちの聞き込みによる裏付けによって、嘘は早々に暴かれるに違いない。警察も検察も陳腐な言い訳に騙されるほどバカではない。  起訴は確実となろうという丹羽からの報告によって、一件落着となったのだった。 ◇    ◇    ◇  事件から三日が経ち、鐘崎と清水の容体もすっかり元通りとなったその日、無事に組へと帰還した彼らを組員たちが感激の面持ちで迎えた。 「若、姐さん、清水幹部、お疲れ様でございやす!」  皆揃ってご無事で何よりですと瞳を潤ませる。中には鼻を真っ赤にしながら涙を拭う者もあって、こんなふうに心配してくれる皆のあたたかさをしみじみと感じる若夫婦だった。 「何だかすっげ久し振りに感じるな……」  縁側に腰掛けて中庭を眺めながら紫月がほうっと安堵の溜め息をもらす。鐘崎の帰りが遅いと気を揉んでいた三日前のことが何年も前のように感じてしまう。紫月にとって、それだけ今回の事件は衝撃であり重かったということだろう。一歩間違えば鐘崎も清水も今頃この世にいなかった可能性も十分あるわけだ。あの日、帰りが遅いことが気になって、すぐに動いたから良かったものの、急な仕事でも入ったのだろうなどと悠長にしていたら――と考えると背筋が寒くなる。

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