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パレード
世界が百八十度変わる瞬間を私は見たことがある。
進学校、というやつは非常に厄介だ。点が取れたら教師の信頼を得て、クラスメイトからは慕われる。テストの点数だけで優劣が決まるのだ。
そんな学校の中で噂が立った。誰からも愛される生徒会長の宮本が男とラブホテルから出てきたという噂だ。
それから生徒会長は辞任、ほどなくして宮本は学校を辞めた。
あの頃、同性を愛することは異端だった。
今でこそ同性愛は多様性のひとつであり、もちろん若干の区別はされるものの市民権を得ている。
これは私が学生だった頃の……そう、カビのはえた話だ。
大人になりそういうコミュニティーに属した私は、夜な夜な個室ビデオボックス、パレードへ向かうことが多くなった。
パレードはビデオを選びながらお互いにタイプであればどちらかの個室でからだを繋げる。いわゆるハッテン場だ。
特定のパートナーが欲しいと思わないではないが、私はどうしても宮本が忘れられなかったのだ。
パレードの入っている雑居ビルが近づいてくる。私よりも先にそのビルへ入っていく人も数人。
その人たちについて行くように歩き出したときだった。
「飛田?」
ドキリとした。こんな場所で名前を呼ばれるなんてそうそうない。
ゆっくり振り向くと、見覚えのない男がひとり立っている。
「だれ?」
「俺だよ、覚えない?」
その声を聞いて私はハッとした。宮本だった。
明るい茶髪に複数のピアス。薄い生地のシャツの上に羽織られただけのアロハシャツ。
思い出の中の、きれいに整えられた襟足や、きっちりと閉じられていた学ランの面影はない。
私は老けたのに、宮本は少しも老けていない。むしろ若返ったのではないかとさえ思う。
宮本が学校を去るとき校門の前で彼の名前を呼んだが、宮本は振り向かなかった。
きれいに整えられた襟足を、私はただ見送った。
そしてその瞬間、私は気が付いてしまった。私は彼に恋をしていたと。
私の世界もその時に百八十度変わってしまった。
「飛田もこっちのヒトだったんだ。もしかしてパレード行く気だった?」
「うん、まあ……」
そう返事をすると宮本は私を品定めするように眺めてくる。
「じゃあ、今から俺とホテル行かない?」
「え?」
思ってもみなかった誘いに、心臓が飛び跳ねた。見た目は変わっていても私の初恋の相手の宮本に変わりはない。
宮本とからだを繋げることができるのなら、タチでもネコでも嬉しいと思う。
「子どもの頃の飛田は正直好みじゃなかったけど、今の飛田はけっこうソソる」
そう言って宮本は私の手を取り歩き出した。
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