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ハイブリッド

キツイ、これきつい! 「咲季ちゃん、ちょっとこの子違う!  危ないかもしれないから、どうする?」 「どう、するって?」 「可哀そうだけど…」 それって! 「ダメ!  絶対ダメ!」 僕が頑張れば良いんだから、頑張るから! ちゃんとこの世に生み出してあげるから!! 「咲季ちゃん、分かった  でもどうしてもって判断したら、私が」 「ダメだってば!!」 マナイを説き伏せて頑張ろうとしたけど、物凄い痛みで気を失いそうだった。 トリシュの治癒魔法も、回数の限界を迎えていた。 「トルク兄様!  何やってんの!!  どこ!?」 マナイが怒ってる。 最初はあんなにオドオドした、人見知りで優しい感じだったのに。 「ぁあ!ぐう、待って、待って赤ちゃん!」 急に動きが止まったのが分かった。 「ふふ、いい子  分かってくれたみたいだよ」 「まさか、聞き分けたの?  生まれる前なのに、いえ、生まれても赤子なので、理解なんかできないよ!」 激痛は激痛だけど、一息ついた。 「とにかく治癒を!」 「うん、出来れば有難いかな。」 せめて、お腹の中の痛みだけでも取って欲しい。 息をするのも辛い。 「咲季ちゃん、寝ちゃダメだからね。  聞こえてる?」 「うん、聞いてる  赤ちゃんが、出たいって、もう、苦しいって言ってるから、一気に、頑張るよ」 「待ってて、トルク兄様を」 「待て、そうも、ない、や」 苦しくて早く出ようとする子を、これ以上我慢なんかさせられなかった。 「ぐ、ん~~~!!!」 引っかかる。 もう一度、もう一回! 「ん!!!!」 やっと、ズルっと出てくれたみたいだ。 ぴーきゅーきゅーぷきゅー  ああ、僕と同じなのかな。 「咲季ちゃん、この子、黒い子豚みたいなんだけど、白い毛が生えてるの」 「羊みたいな豚もいたよ、だからそんなもんじゃないのかな」 産湯で汚れを落として、抱かせて貰ったらホッとして、周りを見たらトリシュも限界だったみたいで床にドッと転がって意識をとばしてた。 僕もさすがに、治癒をされないままで意識が飛びそうだった。 疲れて、眠い、息するのも怠いなぁ。 痛みより何より疲れた。 「咲季ちゃん、咲季ちゃん!!!  誰か、誰か来て!  目を開けて!  お願いだから!」 「大丈夫、眠いだけだから」 マナイの叫びを聞いて一同がやっと中に入ってきて、産室の惨状を認識した。 「咲季!  咲季!」 「早く治癒を!  浮かれてる場合じゃないだろ!」 「産むのって、こんなに、辛くて大変なのに、みんな、凄いよね」 ヘロヘロになりながら笑うと、腕の中にいた最後の子がぷきゅぅと鳴いて、目を開けた。 トルクからの治癒は傷を治したけど、体力までは回復しなくて、そのまま、眠りに落ちた。 全く、君は、やらかすねー! あ、神様! 僕ちゃんと産みましたよ! 見て来たよ。 白豹の子は強い子だし、黒豹は神の子だし、最後の子豚は、二人の良いとこ取したハイブリッドじゃない。 三人とも健康で大きくなってくれたらそれで、いいですよ。 黒豹は、黒を隠すよ。 ちゃんと自分で力をつけて、戦えるまでは狙われやすいから。 白豹にしとくから。 ハイブリッドな子豚も、白豹にしとくからね。 三人がちゃんと力をつけるように、頑張って育ててね。 はい! あ、名前は? それは家族で考えなさい。 また、来るからね。 ありがとうございました! 眠りから覚めた時はなんだか産んだことも夢かと思ったけど、側の小さなベッドでキューキュー泣く声を聞いて、現実だったと実感した。

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