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きらきら星変奏曲 3
年末年始は親戚のどんちゃん騒ぎに辟易しながらも、弟の望ともゆっくり過ごすことができてそれなりに楽しめた。だが、それ以上に早く学校に戻って茉理 に会いたい気持ちでいっぱいだった。
退屈な始業式や授業を終えて与えられた掃除も率先して行い放課後を待つ。
天体望遠鏡を抱えて音楽室に飛び込むが、どうやら音楽室の主はまだ到着していないようだった。
いつも茉理が弾いているピアノだが、しばらく不在だったためか蓋に埃がうっすらと積もっていた。それを指で撫でる。
「何してるの?」
急に背後に茉理が立っていて驚いた。
「暇だったから触ってみようかと思って……」
久しぶりの茉理の声に、心臓が壊れてしまうのではないかと思うほど強く脈打っているのがわかる。
「ハジメが嫌じゃないなら一緒に弾いてみる?椅子を持っておいで」
促されるまま、並んでピアノの前に座る。
「きらきら星の主旋律は弾ける?最初のところだけ一緒に弾いてみようか?」
茉理の長くきれいな指が俺の手に撫でるように触れる。
それだけで一点に熱が集まってしまう。
恥ずかしい。
俯いて動かなくなってしまった俺を見て茉理が心配そうに顔を覗き込んでくる。
「ハジメ……どうしたの?大丈夫?」
「ごめ……俺……」
何とか隠そうとするが、その不自然な動きで茉理の視線もそこのに行き着いてしまう。
「勃ってる……」
その通りなのだが、茉理に改めて指摘されると更に恥ずかしさが増す。
「これって、ボクのせい?」
「だ、だったらなんだって言うんだよ!」
恥ずかしさからつい喧嘩腰になってしまう自分に頭を抱えたくなるが、どう返事をするのが正解なのかわからない。
「ボク、聞いてほしい話があるんだ」
茉理が急に話をし始めようとするので、それは今必要なことなのか戸惑ってしまう。
「春には婚約者ができるかもしれない。おばあ様が同じαの女性と結婚すべきだって言うんだ……」
「そ、そんな話俺にしてどうすんの?」
今から自分は拒否される理由を聞かされるのかと思うと逃げ出したかったが、いつの間にか茉理に両肩を押さえられて逃げ出すことはできなかった。
「でも、ボクはハジメが好きなんだよ」
茉理は何を言っているのだろうか。茉理のような人が俺のことが好きなんてことがあるのだろうか?
なんて都合のいい夢を見ているのだろう。
「俺が好きとか……冗談でしょ」
「ハジメは……ボクのこと嫌い?」
その聞き方はずるい。好きか嫌いかなんて聞かれたら答えなんてきまっている。
「……大好き」
「キス……してもいい?」
茉理がそう問う。キス、してもいいのだろうか?
相手は俺とは違い、将来の仕事も結婚相手も約束されたような手の届かない相手なのだから。
そう思うが、逆にこんなに心惹かれる相手と繋がれる機会が自分の人生の中で今後訪れることがあるのだろうか。
今だけなら、この甘い夢に身を委ねてみても許されるのではないか。
「いいよ……」
その合図とともに柔らかな唇が触れる。
茉理とキスをした。
いつものように放送に急かされ「またあした」と挨拶を交わし別れた後もその感触が忘れられない。
茉理は俺の好きな星のような存在だと思っていた。才能に溢れ、放つ輝きは美しく、恋焦がれる俺のような凡人には手の届かない。そんな存在。αとはそういう選ばれた人間なのだ。
その才能に群がるやつは多いはずだ。だから、茉理の祖母の言うことは最もだろう。
若いうちから身元のしっかりしたαの女性と婚約しておくことの利点くらいは俺でもわかる。
これが女性やΩであれば大きな問題になるかもしれない、でも自分は男でβなのだ。一時の遊び相手にくらいになっても許されるのではないだろうか?
そんなことを思いながら朝を迎える。
よく眠れずにいたため、うっかり授業中に居眠りをしてしまい放課後は職員室に呼び出されてしまった。
思いのほか長時間、職員室に拘束されてしまい慌てて音楽室へ向かうが、ピアノの音が聴こえてこない。不安を感じつつ扉を開くが、やはり茉理の姿は見えない。
やはり昨日の出来事は揶揄われていたのだろうか。それとも、今までのことは全部夢だったのか。
仕方なく屋上へと足を運ぶと、中央に黒い塊が鎮座している。
何かと思い近づくと、塊が動く。
「遅かったね、ハジメ。……ボク、嫌われちゃったのかと思ったよ」
塊は、見たことのない毛布を身に纏った茉理だった。
「ごめん、授業中に居眠りして怒られてた」
「茉理、自分の毛布用意したんだ……」
いつも同じ毛布に包まり熱を感じられるのが好きだっただけにガッカリしてしまう。
「うん、ハジメと一緒に入るならもっと大きい方がいいかなって思って」
予想していなかった返答に驚いてしまう。
「は?俺と一緒にその毛布に包まる気なの?」
「もちろん。早く入ってよ」
そう言って両手を広げる茉理にどこに入ればいいのか困っていると茉理に腕を引かれる。
「ハジメはここに座って!」
茉理の膝の間に座らされ、後ろから抱きしめられる。
「ハジメの香りがする……温かい」
背中に茉理の鼓動が伝わってくる。その速度は朔のものとそう違いはない。
茉理も俺と同じで緊張しているのだと教えてくれる。
「ね、ハジメ。触ってもいい?」
頷いて見せると、茉理の綺麗な手が朔の胸元を探るように動く。
「茉理みたいな人でも、そんなやらしい触り方するんだ?」
いつもの仕返しに少し意地悪なことを言うと、茉理は真剣に返してくる。
「好きな子に触れているんだから、当たり前でしょ」
しばらくそんな風に触れられていると、尻に茉理のモノが触れ、茉理も興奮してくれているのだとわかる。
「茉理の……触ってもいい?」
「触って。ボクもハジメの触ってみたい」
人のモノを握って扱くなど初めてのことでどう動かせばいいのか戸惑いがあったが、茉理の動きも決して手慣れたものではなく安心した。
互いに高度が増していき、好きな相手といけないことをしているという興奮と快感で腰が動く。言いようのない気持ちが胸に込み上げキスをねだると、茉理は応えてくれる。
触れるだけのキスを二度交わすと、少し開いた唇の隙間に舌を差し込まれ、次第に息をも奪っていくような深さに変わっていく。互いの吐息とくちゅくちゅという水音だけが屋上に響く。
「ハジメ……もう……」
「あっ……まつ、り……イク」
お互いに手には相手の精液がべったりとついてしまったが、それすらも嬉しく感じてしまうのだから手に負えない。茉理が、俺の精液がついた手で手を握ってくる。
「何してんの……」
「ボクの精子と、ハジメの精子が混ざって子どもが出来たらいいのにって思って」
「何バカなこと言ってんの……」
でも、子どもができるのならずっと一緒にいられるのだろうかと少し考えてしまう。
スピーカーからのタイムアップが告げられるまで何度も触れ合ってキスをする。
毎日のようにそんなことを繰り返して幸せな反面、茉理の卒業を考えると日に日に虚しさが大きくなっていった。
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