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カミの子
僕……姨捨 4号は明日、カミの子になる。
カミからの思し召しにより、僕のすべてはかわいそうなソトのものへあげてあげるんだ。
だから、今日でさよならする。
「アズ」
白くて長い髪のショウは机の椅子に座りながら今日も優しい顔を僕に向けている。
君が僕の臓器 を切り分ける張本人のくせに。
「怖ないん?」
「全然」
「そうやろな。むしろ、待っとったもんな」
なぜか、ショウの目が濡れている。
「でも、眠れないから。なんかクスリちょうだいよ」
本当にはセンセイだから、敬語じゃなきゃいけないんだけどね。
「しゃあないな」
クスッと笑ったショウはチューブから緑のクスリを手に取り、なぜか自分の舌に落とした。
「ショウ、な……ンッ」
急にベッドにいる僕の頭の後ろを掴み、口を奪われた。
滑るように口の中にクスリを塗り付けられる。
鼻はツンっとするし、味わったことがないまずさを感じた。
身体はビリビリしたし。
チュッ
満足そうに舌なめずりをするショウの顔を見ながら、力なくベッドに倒れる僕。
「今日ぐらい、良い夢みろな」
優しく布団をかけて、トントンとお腹を叩いてくれた。
「ーーやったで」
口を震わせて言った言葉が聞き取れないくらいもうろうとしてきて、プチッと意識が切れたんだ。
あとは、カミと繋がるだけ。
『お目覚めください』
低くて尊い声が聞こえてきて安心する。
良かった、繋がったんだ。
僕は静かに目を開けた。
しかし、目の前にいるのは全く見覚えのない男。
しかも、まだ真っ暗。
でも、カレの顔は月明かりでよくわかる。
真ん中で分けられた前髪。
三日月の目と口。
膨らんだ頬。
どう見ても、三枚目。
「あなたが姨捨4号くんでございますね?」
僕はゆっくりと首を縦に振る。
なんとなくふわふわしているから、上手く自由が利かないんだ。
「わたくしは海老名 と申します。見ての通り、泥棒でございます」
確かに灰色のパーカーを着ている。
ねずみ男……だっけ。
タカラモノを盗みにくる悪者。
ここにはそんなものなんてないのに。
「あなたを盗みに参りました……あなたのすべてを」
カレは僕の頭の後ろを掴み、額に口づけをした。
ああ、カレも僕を欲しがるのか。
僕の臓器を。
でも、顔を胸に押し付けられた時にいいかなって思った。
早まる鼓動の音が心地よかったから。
「ショウ、には……なに、も」
ここは医務室。
ケガした時はもちろん、カミの子になるための儀式も行われる場所。
センセイ……ショウがやってくれる。
横目で見ると、にこりと笑いながら寝てる。
ショウは違うよ。
ママみたいな悪い人じゃないから。
『アズ……大丈夫やで』
四って書いてあずまと読むと教えてくれたから。
ショウだけは傷つけないで。
カレはふふっと余裕の笑みを浮かべる。
「わかっておりますから大丈夫です。わたくしの目的はあなたのみでございますよ」
では、参りましょうとカレは額同士をコツンと合わせた。
なんだろう。
暖かい。
僕はそう思ったのを最後に意識を手放したんだ。
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