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第1話

「メリークリスマス!」 グラスを合わせる。 「今年もまた、拓海とクリスマスを迎えられて嬉しいよ」 「うん、俺も。和哉さん、ありがとう」 毎年同じ店で、俺達はクリスマスを祝う。 「さて拓海、今年はどんな一年だったかな?」 「ん~そうだなぁ・・・」 「考えなきゃ答え出てこないのか」 「そうじゃないけど。いろいろあったからなぁ・・・」 「例えば?」 「例えば、姉貴んところに子供が生まれたとか」 「拓海もついに叔父さんか」 「叔父さんって・・・」 「そうだろう?」 「いや、まぁそうだけど・・・そういう和哉さんはどうなの?」 「どうなの、とは?」 「今年一番のニュース?」 「拓海とクリスマスを祝ってることかな」 「えーっ、それだけ?」 「それだけって、俺にとってはこの時間が、一番大切な時間なんだけど?拓海は違うの?」 「いや、俺もそうだけど。他にもあるだろ、温泉行ったとか、映画観たとかさ」 「あー、そんなこともあったね」 「あったねって、憶えてないの?」 「勿論憶えているよ。忘れるわけない」 そう言って和哉さんは遠い目をした。 「メリークリスマス!」 グラスを合わせる。 「今年もまた、拓海とクリスマスを迎えられて嬉しいよ」 「うん、俺も。和哉さん、ありがとう」 毎年同じ店で、俺達はクリスマスを祝う。 「さて拓海、今年はどんな一年だったかな」 「姉貴んとこの子歩くようになったよ」 「あれから一年か、早いものだね。」 「うん。この前まで赤ちゃんだと思っていたのにね」 「月日の流れは本当に早い」 「だね。」 「他にはないのかい?」 「他には・・・あっ、家、リフォームした」 「それは良かった」 「なんでいいの?」 「拓海も暮らしやすくなるだろ」 「そうかな・・・そういう和哉さんは?」 「何?」 「何って、今年の出来事!」 「こうして拓海とクリスマスを祝っていることかな」 「またそれ!?」 「いけないかい?」 「いけなくはないけど・・・」 「温泉も映画も、ちゃんと憶えているよ」 そう言って和哉さんは遠い目をした。 「メリークリスマス!」 グラスを合わせる。 「今年もまた、拓海とクリスマスを迎えられて嬉しいよ」 「うん、俺も。和哉さん、ありがとう」 毎年同じ店で、俺達はクリスマスを祝う。 「さて拓海、今年はどんな一年だったかな?」 「姉貴んとこの由馬が幼稚園に入った」 「もう幼稚園か」 「それと、二人目が来年の春に生まれる」 「そうか・・・由里さんは幸せなんだね」 「ごめん、聞きたくなかった?」 「どうして?」 「なんだか和哉さん、淋しそうな顔したから」 「気のせいだよ、拓海」 「でも、和哉さん、昔姉貴のこと好きだったよね・・・」 「そう思っていたのかい?」 和哉さんは苦笑いした。 「違うの?」 「由里さんには悪いと思ったけど、君と接点持ちたくて由里さんに近づいた」 「本当に姉貴のこと好きじゃなかったんだね?」 「当たり前だろ。じゃなきゃ、拓海とこうしてクリスマスを祝ったりしない」 そう言って和哉さんは遠い目をした。 「メリークリスマス!」 グラスを合わせる。 「今年もまた、拓海とクリスマスを迎えられて嬉しいよ」 「うん、俺も。和哉さん、ありがとう」 毎年同じ店で、俺達はクリスマスを祝う。 「さて拓海、今年はどんな一年だったかな?」 「由華が幼稚園入った」 「随分と若い叔父さんだな、拓海は」 「若くないよ。おれ、もうすぐ三十だよ」 「初めて二人でクリスマスを祝ってから、もう十年も経つのか・・・」 「うん、本当にあっという間だったね」 沈黙のあと、和哉さんが真剣な顔をして言った 「拓海。今日は大切な話があるんだ」 「・・・何・・・」 「こうして拓海と会うの、今年で終わりだよ。」 「・・・噓、だよね?」 「噓じゃない」 「なんで、急に!」 「いつまでも俺を想っていちゃいけない。」 「どうして!」 「拓海は・・・生きている。現実世界で生きているんだ。いつまでも俺のところにいてはいけない」 「いいんだよ、それで!現実世界なんてどうでもいい!俺は和哉さんが・・・」 「ダメだ、拓海。早く目を覚まして由里さんやご両親の元に帰りなさい」 「嫌だ!俺は和哉さんだけでいい、他なんかいらない!」 「ありがとう拓海。でもね、本当にもう会えないんだ。天界の掟でね。十回しか、この世には下りて来られないんだよ」 「今日が、十回目・・・」 「そう。だから、もう俺を忘れて新しい人生を歩みなさい、いいね?」 「嫌だ・・・俺もそっちに行く!」 「聞き分けのないこと言うんじゃない!」 「和哉さん・・・」 「俺の我儘で、十年も拓海を縛り付けてごめんな。もう、開放するから。そうしたら俺のことなんてキレイに忘れているから。」 「嫌だ、そんなの・・・和哉さんのこと忘れるなんて・・・俺の初恋なくなるの、嫌だ・・・」 「・・・これから、新しい恋に出会い、それが拓海の初恋になるよ。だから・・・安心して・・・」 そう言って和哉さんは遠い目をした。 「さようなら、拓海・・・俺の大切な拓海・・・今までありがとう・・・」 「ん・・・」 「拓海、拓海!」 「・・・かあさん・・・?」 「拓海!」 「・・・姉貴」 「由里、先生呼んで来て!」 ここはどこだ・・・俺は・・・ 「良かった、本当に良かった・・・」 母は、ただ泣いていた。 聞くと十年前のクリスマス、俺は知人と食事をした帰り事故に巻き込まれたそうだ。知人は即死。俺も頭を打って意識不明となり、今日まで眠り続けていたらしい。 「いやー、これは奇跡ですよ」 医者がそう言った。 「亡くなった方のこと、憶えている?」 姉が聞いた。 「ごめん、憶えてない」 「私の同級生で、北條・・・」 「和哉・・・」 「憶えてるじゃない」 「いや、知らない」 「今、和哉って言ったでしょう」 「なんとなく、口をついただけだよ」 「それより拓海、その指輪は?」 「えっ?」 見ると右手の薬指に、指輪がはめられていた。 「あんた事故の前まで、そんな指輪してなかったじゃない。」 「なんだろう。全然憶えてない」 「そう。でも焦ることないわ。十年も眠っていたんだもの、ゆっくり思い出せばいい」 姉はそう言って俺の頭を撫でた。 俺は十年前のクリスマス、誰と会っていたんだ。眠ってる間中、暖かくて柔らかな何かに包まれていたように感じるのは気のせいか。どんなに思い出そうとしても思い出せない・・・ ふと指輪が気になって外してみた。そこには『K&T』という刻印があった。 「K&T・・・」 Tはおそらく拓海のTだろう。じゃぁKは・・・!? 「和哉・・・さん・・・」 またあの名前が口をついた。その瞬間、失くした初恋が一気に俺の脳裏を駆け巡り、ひとすじの涙が俺の頬を伝った・・・

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