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Ⅲ これは恋なんかじゃない!①

落ち着け! 落ち着くんだ! 落ち着いて、よく考えろ! 真川さんは…… 『スーツの弁償は必要ない』 『謝る必要はない』 ……と言った。 『償ってくれればいい』……と。 償う方法が…… (俺の人生の時間で) 『人生を貰いたい』……って。 (やっぱり!) プロポーズ★ (いや、待て) よく考えろ。 俺の勘違いだって事もある。 (じゃあ、この状況はなんだ?) 鼻孔をくすぐるフレグランスが甘い。 俺は、真川さんに抱きしめられているんだ。 (抱きしめられて……) 吐息が耳元で囁いた。 『人生を貰いたい』 フレグランスよりも甘く…… (これは、もう……) どう考えたって、プロポーズじゃないかぁァァァァーッ!! 「どうして俺なんですか?」 「君がいい」 「でも俺達は今日、初めて会って!」 「初見でプロポーズしてはならないという法律はあったか?」 「ない……です」 「だろうな。政治家もそんなに馬鹿ではない」 つか……やっぱり、プロポーズなんだ。 「俺は男です」 「君はΩだろう」 バレてる! 「好きでもない相手にプロポーズはおかしいです」 「私が君の事が好きではないと、なぜ言い切れる?」 「それは……」 (真川さんは、俺の事が好きでプロポーズしたのか?) 「俺の事、なにも知らない」 「現時点ではな。知っているのは君の名前と性別だけだ」 「だったら」 「これから知っていけばいい」 「無茶苦茶です」 「無茶は言っていない。合理的な話だ」 「どこがっ」 「俺は今すぐ君と一緒になりたい。君は俺と一緒にいる時間で俺を知ればいい。合理的だろう。どうだ?」 「『どうだ?』じゃありません」 なにを自信満々に、この人は~。 「とにかく!」 「ダメだとは言わせない」 「………」 「………」 「~~~」 「『ダメ』だと言うつもりだったんだな」 「心理を読まないで下さい」 つか、心理を読めるのなら今の俺の気持ちだって分かるだろう。 切羽詰まっている。 追い詰められている。 「答えは『Yes』のみだと教えた筈だ」 「でも、真川さん」 「名前を呼んでもらえるのは嬉しいが、タイミングは今じゃない」 宵闇色の瞳が迫る。 「『Yes』以外を言う唇は塞いでしまおう」 瞳が距離を詰める。 男の秀麗な顔が間近に迫る。 俺、キスされるの?……

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