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第1話

 宙に浮く感覚が我が身に起こった事とは思えないぐらいだった。  それに、鈍い痛み。骨へ直に伝わってくるような熱さ。  おそらく、骨を折ったのだろう。  折れていない筈の手にも、足にも不思議な程、力が出なくて、立ち上げる事はできなかった。  陣内の視界には力の入らなくなった腕がある。胴体とは繋がってはいるようだった。 それから、暫くして、陣内に駆け寄った人に謝りながら、身体を起こしてもらった。救急車が来て、腕を固定されて、ストレッチャーに乗せられる。 何だか、おかしかった。 逢坂に弄ばれたり、柚木に好きだと言われたりするのとは違った意味で。 本当に我が身に起こった事ではないようだった。  多分、悪夢を見たという事もあり、あまり良く眠れなかったのだろう。  病院へと搬送される救急車で揺られ、名前や住所といった事を質問される。その受け答えをしているうちに眠くなってしまったようだ。  実は、陣内には親はいない。父親は陣内が幼い時に亡くなり、母親も陣内が大学に入ったばかりの時に亡くした。  それから、陣内は独身の叔父の元に引き取られる形になり、大学は中退して、手に職を着けるべく、専門学校へ通うようになった。 「すまないね……」  伯父は謝ったが、陣内は自分こそ謝らなければならなければと思った。  自分さえいなければ、もう少し、楽な生活ができただろうに……。  そんな思いもあって、暮らす家も叔父のではなく、自分で安いアパートを借りた。幸い、母親の残したお金で2、3年程は学校へ行きながらでも暮らせそうだった。

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