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◇優越感?*圭

 まだ食事には早いねってことで、ボートに乗ることになった。  意外とたくさんボートが出てて、大きな池に、たくさんのボートが浮かんでいる。白鳥の足漕ぎのボートと、普通に手漕ぎのボートがあって、選べるみたいだった。ボート乗り場に並びながら、隣にいる高瀬を見上げる。 「どっちがいい?」  聞くと、高瀬はオレを見つめて、ぷ、と笑う。 「織田、白鳥乗る気あるの?」  高瀬のその質問の意味は分かる。  多分、あれは、手で漕げない女の子たちとか、家族連れが乗ってる気がするから。 「ん……囲われてていいかなーと」  オレが、ちょっと小声で言うと、高瀬は耳を寄せて聞いてから、不思議そうにオレを見た。 「どういうこと?」 「手漕ぎのボートとか、高瀬が乗ってたら、池の周りの女子達が高瀬を見ちゃいそうだからさ」 「――――」 「なんかあちこちから視線飛びそうじゃない?」 「池のボートの人なんて、見るかなあ」 「んー、オレなら見ちゃうけど」 「え。オレが乗ってたら?」 「うん」    なんて会話をしてたら、高瀬が、無いよと笑ってて。  まあでも男二人で、白鳥もなんだかなって感じだったので、手漕ぎのボートにした。  乗り込んで、高瀬がこぎ出したのだけれど。  ……うわー。めちゃくちゃカッコいいというか、もうなんか、絵みたいというか、もう、このまま、ボートのコマーシャルにできるんじゃないだろうかというか。何だろ、ボードのコマーシャルって? とか思いながら。  ……とにかく、もうなんていうか、完璧すぎ。 「えーと…… 織田、見すぎ」 「え……あっ」  確かに、ガン見しすぎていた気がする。  ぱっと視線を逸らすと、高瀬が面白そうに笑う。 「まあ、さっき、ずっと見ててとは言ったけど……」  クスクス笑って、高瀬がオレの顔を見つめてくるので、もう一度高瀬に視線を戻すと。 「なんか、そんなキラキラで見つめられると、ちょっと照れる」  なんかもう、照れるとか。  高瀬が言うとかちょっと可愛いし。  ……でも、ああもう、マジで、カッコいい。   「結構、力使うんだな、これ」  そんな風に言って、高瀬が、腕をまくる。  高瀬の、男っぽい腕。  ……何なの。もう全部本当にカッコよすぎて、向かい合ってボートに乗るって、目のやり場は、どこなのだろう???  このままだとまた見すぎてしまうし。  仕方なく、周囲に視線を向けると。  池の周りでのんびりしてるたくさんの人。子供が、ボートを指さして何か言ってたりする。  のどかだなぁ……。  なんて思っていたら。  女の子たちの塊が、なんだかこっちを見て、きゃあきゃぁ言ってる雰囲気を見つけた。  ああ。……高瀬を見つけたな。  さすが女子。  目ざとい。  女の子のイケメン発見のレーダーって、結構すごいなと思うのは、オレだけだろうか。まあオレの、高瀬発見レーダーも、会社では随分役に立っている気もするけど。オレは、高瀬限定のレーダーだけどさ。  大体どこに行っても、高瀬を見る女子は居る。  分かるよー、相当カッコいいもんね。ていうか、こんな人見たら、芸能人かなって見ちゃうのも、すごく分かる。まあさすがに会社で働いてる時は、そういう芸能人を見るような視線じゃなくて……いやでも、会社の方は、あわよくば付き合えたらっていう、現実的なものが入ってる気もするけど。  やっぱり白鳥の中に隠れた方が良かったかなー。  むむ、と内心思っていると。 「――――……気持ちいいな?」  そんな声に、高瀬に視線を戻すと。  高瀬は、ちょっと漕ぐのを休憩して、前髪をかき上げながら、オレを見つめていた。 「風もあるし、意外と、公園の池でも、気持ちよかったりするんだな」 「うん。……そうだね」  高瀬の笑顔に、嬉しくなって頷く。  ……誰が高瀬を見てても。  なんか、ここで、高瀬が見ててくれてるのは、オレだけなんだなぁって。  ちょっと優越感。とか。  もうなんかオレ。考えてること、あほだな……。  でもそんだけ、めちゃくちゃ、好き。  高瀬。 「戻る時オレも漕いでみるね」 「ん、頑張って」 「うん」  クスクス笑う高瀬は。 「なんかさ。織田と居なかったら、ボートなんか乗らないし。……こんな気持ちいいとかも、知らなかったなと思ってさ」 「……うん?」 「なんか、織田と居ると、ほんと楽しいなって思う」  もう。高瀬ってば。  …………好きすぎて、泣きそうですが。    

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