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出来損ない
ぼくは18才の人間。
名前はない……というか忘れてしまった。
いつもお前とよばれていたし。
それなのに、なんで18才ってわかるかって?
ユウシュウな人になるための試験というものを
受ける年齢だからさ。
シリツのナンカンダイガクのえーおーというやつ。
でも、結果は不合格……やっぱり出来損ないだからかな。
もともとゴミのようにされていたんだけど、医者になるようなユウシュウな人しかいない家のみんなに愛想をつかれ、完全に捨てられることになった。
やっと、捨ててくれたんだ。
これで、ぼくの人生はおわる。
ガチャ
バンッ
『以後、この屋敷を跨がぬように……ゴミが』
長いあしでけり、ゴホゴホするぼくの頭を強くつかんでいくシツジ。
ズルズル
そのままひきずり、門のソトへ投げだしたあとにつばを吐きかけてきたんだ。
大きい家のドアを閉めた音がきこえてから、やっと立ち上がったぼくはそろりそろりとあるきはじめる。
伸びきっていてぐしゃぐしゃなクロい髪、やぶれたりさけたりしているみずいろのワンピースを着ているぼくははだしだから、じりじりといたい。
はじめてソトにでたのに、あたりはまっくら。たすけを求めるばしょも人もいない。
まぁ、求めることはないけど。
でも、とおくでたのしそうなヒカリとオトがきこえて、ちょっと気になるからいこうとおもったんだ。
それなのに、ぼくのからだはぜんぜんうごいてくれない。
いままでのいたいいたいがイッキにあふれてきて、イキぐるしくなったぼくは道のはじっこに小さくなる。
こんなところでは死にたくなかったな。
「今日、楽しかったね」
「ハロウィン、最高!」
声がきこえるところを見たら、2人の人間があるいていた。
着たことがないたくさんの色がついた服。
キラキラした笑顔と声。
きいたことのない楽しそうなことば。
どれもぼくがもっていないものがキラキラしていたんだ。
ああ、うらやましいな。
つめたい風はぼくのからだとこころをひやす。
「ぼくの人生、サイアクだったな……」
目を閉じたら、つめたい水がほっぺたについて、下にながれる。
ブルブルがいちばん強くなってきたから、ぼくはからだをもっとギュッと小さくしたんだ。
しょうがない、このままこごえ死んでしまおう。
「トリックオアトリート……お菓子をくれなきゃ、いたずらしちゃうぞ♪」
たかい声がきこえてきて、なんだろうと顔をあげる。
ピンク色の髪がみみまであって、はながたかいおとこの子が口のはじっこをあげていた。
とりにくのあとり……よくわからない。
それに、カレにはぼくのことが"視えている"んだ。
「なにを言ってるんですか?」
ことばのイミもかおのかたちのイミもわからないぼくはとまどうしかない。
カレはぼくを見つめながらボサボサのクロい髪を左手でなでる。
「日本人じゃないの?」
とてもキレイな顔。
「日本人ですけど」
つぎはわかった。
「名前は?」
ほんとうの名前を言ったら、カレはいなくなっちゃうのだろうか。
でも、ウソをついてもカレのまっすぐな目でわかってしまいそうだから、しょうじきに言う。
「御前 です」
このセカイではゆうめいな名前をビクビクしながら言ったのに、カレはクスリと笑っただけだった。
「かわいそうに……こんなかわいい子を隠し持っていたのがあのくだらない一家だなんて」
もったいないと付けて左手をあたまのうしろからくびへもってきたカレは伸びきった髪をうしろにまわしはじめる。
御前家はたくさんの人にうらまれてるってきいたことがある。
カレもその人なんだ。
「じゃあわかるように言うよ。僕にとってのお菓子、君の命をちょうだい」
ああ、ぼくはこの人に殺されるのか。
「いいですよ」
ぼくは応えるため、すこしでもいたくないように目を強く閉じた。
きっと、カレは首をしめるんだとおもったから。
ああ、あっけないな。
息がしづらいのはたぶん骨がかなり折れてるから。
いつもボコボコにされて、軽くてあてされるんだけど……今日はいちばんヨウシャなくて、ボコボコのままだから。
すごくいたい。
どこかわからないくらい。
そんなぼくにカレはトドメをさす。
でも、なんでだろう。
ぜんぜんこわくないんだ。
元々、生きたいと思ったことがないし。
だから、フッと鼻で笑ったのをきいて、ぼくはチカラをぬいたんだ。
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