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三九二さん
1人の時はお風呂とトイレぐらい。
つまり、夜も1人じゃない。
僕の部屋は全体的に黄色。
黄色い壁に黄色のプレイマット、その上に敷いた黄色の布団が僕の家具。
そこで万生くんから借りてきた本を寝る前に読み切るんだ。
ある人に後ろから抱きしめられ、話をしながら。
「楽しかった?」
「楽しかったよ」
その人は相変わらず甘く低い声で囁くようちゃん。
最初は写真の整理をしているんだけど、すぐに終わらせてこの形になる。
なんのタイミングなのか、時折首の後ろにキスを落として話しかけてくれる。
「今日、三九二 さんたちに言われた。『顔が優しくなった』って」
「ようちゃんはいつも優しいよ」
「マーにぃも同じことを言われたんだってさ」
ようちゃんと真昼は三九二さんという2人の男性が住んでいるところに習いに行っている。
真昼は円水 さんという水色の髪の先生に美術を、ようちゃんは蘭炎 さんというバラ色の髪の先生に写真を教わっているらしいんだ。
同じ三九二なのに血縁関係は全くなくて、結婚しているわけでもないんだって。
でも、本人たちいわく相方だと言っていて、お互いを信頼しあっているとようちゃんは話してくれたことがある。
「『愛しいものを想っている顔をするようになった』ってさ。俺たち兄弟なんだから当たり前なのにね」
ふふっと笑いながら言って、また首の後ろに口づけるようちゃん。
「日本では兄弟が愛し合うのはいけないことらしいよ」
「ここは文潟……そんなルールなんて存在しないから」
なんならそんなルールを作らせないさ、と付け加えたようちゃんの語調は強かった。
「将来はようちゃんがトトとカカみたいになるの?」
「一番優秀らしいからね。俺的にはマーにぃがやればいいのにとは思ってるけど」
「それだと世界がめちゃくちゃになるよ」
僕が半笑いしながら言うと、パチンと何かが跳ねる音がした。
「俺の方がヤバいの、知ってる?」
耳元で誘うように言うから、身体がズクンと疼く。
「今日、夜彦に聞いたんだってね……俺の過去の恋愛事情。そして、勝手に嫉妬したって」
今度は耳の裏を長い舌で舐めるから、身体の力が抜けていく。
たぶん、悪魔の目も発動している。
「かわいいヤキモチを妬いてくれてとても嬉しいんだけど、過去なんか気にしなくていいよ」
パクッと耳の本体を食むから、気持ち良くてもう力がなくなってしまった。
「どんな本を読んだって俺を扱いきれないよ」
僕の手から本を抜き取り、軽く床に置いたようちゃんは僕を布団に組み敷いた。
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