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プロローグ

 義弟(おとうと)と過ごした1年半の日々に別れを告げようと家の外に一歩足を踏み出した。  息が苦しく、涙が出そうで体が震えた。さっき散々泣いたのに、胸を締め付ける想いは途切れそうにない。  日の出前の薄暗さが、涙の痕を隠してくれるだろうか。  初春の明け方はまだ肌寒く、俺の閉ざされた心のようにただ冷たかった。  お世話になった家を見上げ、まだ寝ている義弟の部屋の方を一瞬見、すぐに踵を返した。  未練がましい自分に嫌気が差す。全て自分で決めたことなのに。  行き先も何も告げず離れようと、義弟から逃れようと歩き続ける。新しい家での生活にわくわくすることもなく、ただ焦燥感がみなぎるのを抑えきれない。  側にいられなかった。気持ちが大きくなりすぎて、義弟を壊してしまいそうで。  全て終わりにしようと思って、家を出たんだ。こんな気持ち迷惑だから。義弟がいないと生きられないなんてそんな厄介な気持ちを押しつけるわけにはいかなかった。 「茄治(なち)」と義弟の名前を1度だけつぶやいて、駅まで振り返らずにひたすら歩いた。  新しい生活の中で、この行き場のない気持ちが色あせることを願って。  出会ったのは刺す風が冷たくなってきた10月の初旬。  引き取られた家の2つ下の義弟に一目ぼれした。

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