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運命なのかは後にして〜最終章〜

   毎日が同じで、特に良くもなく不可もない。それが不満とも思わない。  日常とは、人それぞれの日常があり俺の日常は大半が仕事である。  いつの間にか満開を迎えたソメイヨシノは、春の嵐に乗って淡いピンクの花弁が散っていく。  俺は、仕事を終えエレベーターを待ちながらガラス張りの外を眺めていた。エレベーターの扉が開き閉のボタンを押した。 閉まりかけた扉をこじ開けて乗ってきたのは土師(は ぜ)だった。 「お疲れ様…ですって何先帰ろうとしてんですか?」 「なんか約束してたっけ?」 「してないですけど……」 「そういや大阪支社にはもう行かなくていいのか?」 「ああ…島野部長に大阪支社で即戦力になる PG(プログラマー)絶賛募集中なんだけどうだ? って言われて」   真樹之(あの野郎)…嘘つきやがったな…… 「ロマ〜ンスの神様この人でしょ〜うか〜ぁ」俺は、土師の横を見ながら抑揚を付けて歌った。 「なんですか急に…って無駄に歌スキル高くない?」 「おい…無駄って何? つーか、食い付くとこそこ?… ああ、昔ちょっとバンドやってた」 「ええ…意外……」 「なんだよ…意外って…あっでも、ネット上でだったから顔出ししてなかったし」 「へぇ〜先輩の新たなる一面」   「なんだそれ」  エレベーターの扉が開き、俺達は降りて社から出て大通りへ向けて歩いた。 「学生ん時、PCで音楽作んのやたら詳しいやつがいて…おまえ歌えよって言われてノリで歌ったやつが動画残ってるらしい…結構、人気だったってよ」 「マジ? 聞きたい…今からカラオケ行きません?」 「歌わねぇし…行きません!!」 「ええ〜〜なんで止めたんすか?」 「俺は、そーゆーとこ現実的なの…どっちかとていうと、なんでも出来ちゃうPCの方に興味もっちゃったってやつ」 そういや、あいつプロになったって言ってたか……  俺達は、大通りを歩きその一番目立つ広告の人物を俺は指差した。 「ああ、あれダチ」 「ええ! 超有名人! 俺、めっちゃファンなんてすけど!」  普段、無表情の土師が興奮しまくって話してるのが可笑しくて笑った。 「へぇ…そんな有名人なのか? そんな事より…土師は、その…なんだ、ロマンス感じてんのか…俺にって…な〜んてな!」   言っててクソ恥ずかしいわ!     「またまた急に…何? 俺は、特別(運 命)だってずっと言ってるし…顔…赤くなってますよ」土師は、俺の手を握り繋いだ。 「うるさいな…なに手繋いでんだよ!」 「誰も見てませんって」 「駅までだからな……」 「……はい」 俺達は、大通りを外れ肩を並べてゆっくり歩いた。通り道の公園に咲く夜桜が、風に舞うのを目で追った俺の頬に土師がそっとキスをした。  [完]  

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