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初恋の幼馴染と再会する話
「凄い雪になっちゃったね」
こたつにあたってテレビを見ながら春斗がつぶやいた。カーテンの隙間から見える庭はまさしく吹雪だ。
「年末なのについてないな。帰れるかな」
高校までは地元の雪国育ちで慣れてるとは言え、ここを離れてから車の免許を取った律は雪道は数える程しか運転したことがない。
「律は雪道の運転慣れてないでしょ。泊まってきなよ」
春斗はのんびりと言ってふにゃりと笑うと、返事を聞く前にふやふやと立ち上がってキッチンからお猪口といくつかの缶詰を持ってくる。目の前にお猪口を置くと、背後の反射式ストーブの上に乗っているお燗した徳利を律に渡し、持ってきた缶詰をカパリと開けて徳利の入っていたヤカンの隣に置いた。
「さて、そうと決まったら飲むしかないよねぇ。どうぞ~」
お燗の徳利を差し出してお猪口をねだる春斗が、律には新婚の奥さんのように見えてだらしなくニヤつきそうになるのを堪えて酒を注がれる。
「嬉しいなぁ、律が帰ってくるなんて。高校卒業してからだから7、8年かなぁ。もう一緒に年越しなんて二度と出来ないかと思ってた」
「そうか? 俺はいずれはこっち戻ってくるつもりだったから春斗との付き合いは一生だと思ってたよ」
「え、そうなの? 帰ってくるって知らなかったの俺だけ?」
「こんなに早く帰ってくるとは思わなかったけどな。30歳位で戻ろうかな、とは思ってたよ」
「そうなんだ……」
良かった、と春斗は小さくつぶやく。
幼馴染で親友、小学校から高校卒業までを春斗と律はほとんど毎日を一緒に過ごした。だから律が県外の大学への進学を決めた時はとても驚いて律に捨てられたような気持ちで毎日を鬱々と過ごし、余りの寂しさに律の事が好きなんだと自覚した。
律に何も言えないままバラバラの大学に進み、律がいなくなった穴を埋めるように彼女を作った。その度に恋人は大事にしてきたけれど、律ほど気の合う相手はいなかったし誰も代わりにはならなかった。やがて就職しても律への慕情は募るばかりでこのまま一生穴を抱えたまま生きていくのかと諦めた頃、律が地元に戻ってくると聞いた。
今こうして自宅で二人してこたつを囲み酒を呑んでいるなんて、まるで夢のようだった。
春斗はふわふわと気持ちよい酔いに任せてふにゃんと笑う。
律は無防備に笑う春斗にドキドキと胸が高鳴るのを隠せずに、赤くなった頬を酔いのせいだと思ってくれればいいと願った。
春斗と一緒に居ると楽しくて一番落ち着くのに、少し離れるとソワソワと落ち着かなくなると気が付いたのは中学の時だった。一番の仲良い友達だったのに、いつの間にか可愛いと、独占したいと思っていた。好きだと自覚してからはいつも通りをずっと意識していた。いつまでも一番の友達だと春斗が言ってくれるのが嬉しくて、気持ちを隠すのが苦しくて、ずっと一緒には居られないと地元を離れて県外の大学に進学した。
けれど結局、いつまでも心の中には春斗がいて誰も好きになれなかった。身体からなら好きになれるんじゃないかと身体だけの関係を持ったこともあるけれど、それは記憶の中にある春斗を重ねて苦しくなるだけだった。
歳を重ねて自分も春斗も家族が出来て、一緒にいても苦しくなくなればと思っていたけれど、そんなの一生無さそうだと思ったら、どうせ同じに苦しいなら春斗のそばに居たいと帰郷を決めた。一年前に出した移動願いはようやく受理されて、一月からはこちらの支店に勤務することになってる。
子供時代の思い出から離れていた時の事、他愛ない会話でも酒が入っているせいか楽しくてしょうがない。二人してこんなに笑ったのは子供の頃以来だと思う。
ひとしきり笑うと、春斗がゴロンと後ろに倒れて横になる。
「酔ったなぁ。こんなに楽しいの久しぶりだ」
「俺も」そう言って律も後ろに倒れ込んだ。二人してこたつに入ったまま寝転ぶと、足が伸びて酒とこたつで温かくなったお互いの素足が触れた。
律はそのくすぐったい感触にドキリとして少し足を引いた。春斗はそっと離された足が寂しくて律の足を追いかける。こたつの中で足を絡めた春斗が聞いた。
「なぁ、大学決めた時、俺に何も言わなかったの何で? すげえ、寂しかったんだけど……」
ずっと気にしていた事に触れずにいられるものならと思っていたけれど、酔いでふわんと霞がかかった頭の奥で『今しか言えない』と信号が点滅していた。
律は後ろめたく思っていた事に突然触れられて、ヒヤッと心が冷えた。内緒で県外への進学を決めた時、ギリギリまで内緒にしていた春斗には薄情だと攻められても縁を切ると言われても仕方ないと思っていた。けれど春斗は「そっか」と言っただけで攻める事も泣くこともせず「またな」と送り出してくれた。それからこちらで暮らすと決めて帰郷した今日まで、ほとんど最低限しか帰って来なかった。
「一番の友達だと思っていたのにさ……」
「ごめん」
律は謝る事しかできずに、春斗の様子を見ようと身体を起こしこたつの角に近付く。
酒でぐらぐらする春斗の頭の中では『言っちゃダメなのに、言っちゃうの?』と止める声がしているけれど、酒で回りの良くなった口からは勝手に言葉が飛び出していく。
「俺、本当に寂しかった。寂しくて……、さみしくて、律のこと、好きだって気付いた。ねぇ、本当は俺のそんな気持ちに気付いてた? それでウザくなって離れたの?」
自分の口から飛び出した言葉に、当時の気持ちがよみがえって春斗の目から涙が零れる。
「ごめん、今更こんなの、迷惑ってわかってんだけど……」
睫毛に彩られた瞳からはらはらと涙が零れるのを、律はただ驚き黙って見つめる。
「春斗……」
律はこたつを這い出ると、たまらなく可愛い顔で涙を流す春斗の頬にそっと触れる。夢じゃないかと思いながら伸ばした指は、震えながら流れていく温かい涙に触れて、現実なんだと現実感のない頭で考え、現実感がないまま舌で涙を舐めとる。
「ねぇ春斗、抱きしめてもいい?」
春斗にそう聞きながら、春斗の返事を待つ前に春斗の頭を抱き締める。腕の中に、何年も夢見ていた春斗を抱きしめると愛しさが溢れた。
「俺の方こそ、ごめん……。ずっと、春斗の事が好きだった」
溢れ出る想いに、春斗の頭をぎゅっと抱きしめる。
「今更、嘘だって言われても、嫌いだって言われても仕方ないと思ってる。けど春斗の事好きで……、春斗と一緒にいられないと思って、春斗から逃げた」
過去のズルい自分をさらけ出す。
「好きだったのに、好きだって言う勇気もなくて、逃げ出すしか出来なかった」
小さく「うそ」と呟かれるのに今更信じろって都合良いよなと思いながら、更に言い募る。
「春斗と離れて、誰か好きになったらいいと思ったけど、誰も春斗の代わりにはならなかった。春斗以外、誰の事も好きになれなかった」
抱き締めた腕を緩めて、律は春斗の顔を覗き込みゴクリと唾を飲んで告げる。
「今も昔も、ずっと春斗の事が好きだ」
真剣な律の視線を受け止め、春斗はさっきよりもふわんふわんと頭の中が揺れるのを感じた。
「ほんとに?」
「春斗が好きだ」
幼く聞き返す春斗に、想いが届くようにと祈りながら律はもう一度告げた。えへへと笑った春斗が「うれしい」と囁いて律の胸に顔を寄せた。春斗への湧き上がる愛しさに胸が震えて、律は堪らずに春斗を強く抱きしめる。
「律、苦しいって」
「あっ、ごめん」
腕の中でもがいた春斗に言われて慌てて腕の力を弱める。二人同時にふっと笑い見つめ合った。
震える手で春斗の頬を包み律は春斗の唇にキスを落とした。触れるだけで離れようとする律の唇を春斗が追いかける。
もう一度、今度は春斗からのキス。春斗は逃げないように律の頭を掴み、チュッ、チュと何度も触れて深いキスをねだった。熱烈に吸い上げられて、やがて観念した律の舌が春斗の舌を求めて動き出す。夢中になって舌を絡めているうちに、下半身に熱が集まってくるのを感じる。
「んっ、ちょっと待って……」
吐息の間に春斗が律を制止し、夢中になっていた律は残念に思いながらも少し唇を離して素直に従った。
「こっちのが、くっつける」
そう言うと、春斗は仰向けになっている律の上に座り抱きついた。二人の間を邪魔していたこたつ布団が無くなり、身体が密着する。
熱を持ち固くなり始めた律の股間を上に乗った春斗が腰を動かしてゆるく刺激する。
「……っ、はるっ……」
「律の、硬くなってきた……」
酒のせいか、キスのせいか解らない潤んだ瞳で頬を上気させて春斗がつぶやいた。律は止めさせようと声を上げたが、春斗は更に腰を股間に押し付ける。
「俺のも、硬くなってきたの、わかる?」
春斗に聞かれなくても律は春斗の股間の熱を感じていて、コクコクと頷いた。
「はぁっ、りつ……」
吐息と一緒に名前を呼ばれる。律の理性が保ったのはそこまでだった。
そろそろと、でも確かな意思を持って律の手は春斗の股間へと伸ばされる。片方の手で尻を優しく掴み、空いた手でそろっと股間の熱を撫ぜる。ビクリと春斗の身体が飛び上がった。
「っあ……」
思わず漏れた春斗の声に、律のモノも熱を増して完全に勃ち上がる。
「春斗、」
キスして、と言う前に春斗からのキスが降ってきた。熱烈なキスを受けながら布越しに春斗のモノを握り撫でる。
「だっめだよ、律……、汚れちゃうっ」
キスの合間に弱音を吐かれて、律は舌を強く吸い上げた。
「直接触ってもいい?」
「うんっ、さわって……」
一つずつ確認しながら進めていく律と対照的に春斗は積極的だ。律が春斗の部屋着のスウェットに手を突っ込むと自分から擦り付けてくる。
「あっ、りつぅ……、もっと、」
「こう? ここ、好き?」
「うっん、ね、律のは? 一緒にしよ……」
「俺のはいい」
「ヤダ、俺も律のきもち良くしたい。ね、律のも……」
いやらしくねだられてはちきれそうな律のモノを春斗が探り出す。向き合って座り、互いの剥きだされた股間を見下ろして春斗が熱に浮かれたように言う。
「こんなんなってるの、初めて見た」
ふっ……
股間のモノを春斗に両手で優しく撫でられ、律の唇から吐息が漏れる。
「律も、触って、動かして。あっ……」
「気持ちいい? 触られるの、好き?」
「んっ、きもちいっ、あっ」
律は二人のモノを擦り合わせ纏めて握り扱き上げる。
「春斗の、熱くて気持ちいい」
「うんっ、んっ、律もいい?」
「ん、いい……」
春斗は股間の愛撫を律に任せて唇で律の唇をふさぎ、二人して夢中でキスをする。
「ぁあっ、だめっ、もっいっちゃう……、いっちゃうっ」
ぐっと硬さを増した春斗のモノを自分ごとぎゅっと握ると「ぁぁっ」と吐息を漏らして春斗の全身が硬直する。春斗が達するのを感じて律も一瞬遅れて達した。
そのまま荒い息を吐きながら夢中で舌を絡め、痺れるまで存分に堪能してから唇を離した。
「やっちゃったね……」
まだ息が整わない春斗がえへへと笑って言う。律はそんな春斗も可愛くて、吐き出され自分の手にかかった春斗の白濁をペロリと舐めた。
「ちょっ……! 何やってんの、律!」
「春斗の味、確かめないと」
「ばかっ!」
「美味しいよ?」
「そんなわけあるかっ!」
春斗は驚いて真っ赤になり、慌てて律の手に付いている白濁を着たままの服で拭った。さっきまで積極的だったのに急に初心な反応を返されて、律の股間に再び熱が集まる。
「春斗ぉ、おまえ、可愛いな」
今まで幾度となく思ったけれど、言った事の無い事を伝える。
「ばっ……、急に可愛いとか言うな!」
ますます春斗が可愛くなり、律は春斗をぎゅっと抱きしめた。
まさか春斗が受け止めてくれるなんて思いもしなかった。思いもよらない幸福をひしひしと感じて、心地よいぬくもりに浸る。
「あ、除夜の鐘」
腕の中で大人しくしていた春斗の呟きに耳を澄ますと、遠くからゴーンと鐘の音が聞こえた。
「結構、聞こえるもんだな」
「いつもはもっと聞こえるよ。今日は雪だからかな、鐘の音も静かだね」
「そうだな」
「除夜の鐘って煩悩の数なんだっけ? 煩悩の限り尽くしちゃったなぁ」
遠くから聞こえる厳粛な鐘の音にチラリと罪悪感を感じる。
「俺は、念願かなって嬉しいけど」
そう言いながら、律は春斗の様子を伺う。自分は春斗以外に特別な人なんていないけれど、春斗は酒と雰囲気に流されただけかも知れないと慎重になる。そんなに自分に都合のいい事ばかりが起こるなんて信じられなかった。
「俺も嬉しいけど……、もしかして律、恋人とかいたりする?」
「まさか」
即答した律に「良かった」と春斗が溜息を吐く。
「じゃあ、改めて……、俺と付き合ってください」
春斗に改まって言われ、律はびっくりして固まった。
「……おっとこ前だな、春斗」
「だめ?」
「ダメじゃない。そんな事言ってもらえるなんて思わなかった。俺こそ、よろしくお願いします」
律は畏まって頭を下げる。本当いつまで経っても敵わない。春斗の甘い見た目に騙されるけれど、思えば昔から春斗は前向きで明るく自分の意思ははっきり言う奴だった。
「んふふ……、良かったぁ。これで律と俺は恋人同士だね」
恋人、夢みたいな言葉に律の胸が熱くなる。
「ありがとう……」
感極まった律が春斗を抱き締める、というより春斗に抱きつくと「ね、続き、する?」と悪戯っぽい視線で春斗が律を誘った。
「したい、けど、準備が何もないし……、それに、いいのか?」
「せっかく両想いなんだし、したい。準備なら、部屋に行けば色々揃ってるから……」
春斗は最後は恥ずかしそうに目を伏せて言った。
色々? 色々って……、え? もしかして春斗は男とシタことあるってことか? 立て続けに春斗に驚かされて、律の脳内はパンク寸前だ。
「律はする方? それとも、される方?」
具体的に行為の役割を聞かれて、最後までするって事だよな。春斗はしたいんだろうか? でも準備があるってことはされる方ってことだろうか? とグルグル考える。どっちが正解か解らず、でも隠しても後で気になってしまいそうで先に聞くことにした。
「春斗は、その、男とシタことあるのか?」
「ないよ。でも、律ならいっかな……って思ってた。で、前にちょっと自分で……」
真っ赤になって春斗が伝える内容に、ほっと胸を撫で下ろす、と同時に興奮した。
「りっ、律はある?」
今度は自分が聞かれ、渋々頷く。
「あるの!?」
自分で聞いた癖に驚かれて律は居たたまれなくなる。
「どっち?」
「……どっちも……。だから、春斗の好きな方でいい……」
「そ……うなんだ……、そっか……、そっかぁ」
ますます居たたまれなくなりながら、律は嫌われたくない一心で春斗に任せた。実際、どっちも経験があった。恋人がいたことはなくてそれだけの相手とだけれど。しかも、慣れていると言える程した事は無いのだけれど。
「じゃあ先に俺がして、後で交代しよ!」
小さくなる律に、開き直った春斗がイイコト思いついた! とばかりに明るく声を掛ける。春斗の提案に「えっ」っと驚くと「うん、それがいい」と勝手に春斗は納得して、律の唇にチュッと軽くキスをする。
「で、俺の部屋、行く?」
可愛く聞かれて、頭がグラグラする。グラグラする頭で律は頷いた。
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