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和真さんの側にいれるしあわせ
落ち着いていて大人っぽく、上品で、仄かに漂う色香があって、気付けばぼうっと見とれてしまう自分がいた。
海を見にきたはずなのに彼ばかり見ている。
クスクスとすれ違いざまに何人かの女性に笑われて、その度はっと我に返っては、和真さんにも困ったように苦笑いされてしまった。
気まずかったのが嘘のようにごく自然に言葉を交わしていた。
「てっきり四季に嫌われたかと思った」
「そんなことないです」
ぶんぶんと首を横に振ると、
「なら良かった」
彼が微かに笑む。
心に染みる優しい笑みだ。
「彼女には誰よりも幸せになって欲しい」
近くにあったベンチに腰を掛けると寂しそうに本音を漏らしてくれた。
「遊木家は地元の名士だ。小さい頃からお前は朝宮家の嫁になるんだと親に言われ続け、厳しく躾られ育てられたんだ。姉と櫂さんを見てるからかな?結婚するなら好きな人としたい、浮わついた気持ちのままじゃあ、母みたく彼女も不幸にするだけだ。彼女の将来を思い婚約を破棄した。彼女には家に縛られず自由に生きて欲しい、恋だってたくさんしてほしい、そう願って」
そこで言葉を一旦止めると、思いどおりにならないものだな。自嘲すると深いため息をつき項垂れた。
「和真さん」
そぉーと手を伸ばし、彼の手にそっと重ねた。
大きくて温かな手だ。
「今は無理でも、和真さんの想いにきっと気付いてくれると思います」
「ありがとう四季」
ちょうどその時彼のお腹がググーと派手に鳴った。
「ごめん。さっきも食べたんだけどお腹、空いたみたいだ」
照れたように笑う和真さん。
やっぱり笑ったほうが断然格好いい。
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