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番外編
白く、長く、綺麗な指が器用に俺のネクタイを結ぶ。無骨な男の手のはずなのに、繊細な造りの指が妙に色っぽくて思わず見惚れてしまう。
「大地」
呼ばれて視線を少し上に上げると、ベッドに腰掛けた俺の足元に跪く伊織が、その美しい瞳で俺を見上げていた。
朝日を浴びてきらきらと光る茅色の髪と瞳。切長の瞳を縁取る長いまつ毛、新雪のように煌めく肌。
同じ人間とは思えぬ容姿の出来の良さに、返事をしようにも声は喉に詰まってしまった。
直視するのも辛くなって目を逸らせば、まるでそれを咎めるように伊織の手がネクタイを離れ、そっと頬に触れた。
親指の腹が肌の上を滑り、やがて唇を弄ぶ。
「ちょ、やめ……」
思わず文句を言おうと口を開けば、それを見計らったかのように伊織の唇が俺のそれに重なった。
「んむっ……ん……ぅ」
啄むだけのものから直ぐに深いものに変わり、恥じらいはいつの間にか、安心へと変わっていた。
ノーマルの俺がドラッグである伊織の血を飲み、『伊織(ドラッグ)依存症』となったのは一ヶ月前のこと。
伊織の側に居すぎたことも重なり、その依存性は重度のものになってしまった。だから毎朝こうして、朝にしては少々濃厚な触れ合いが必要になるわけだが……。
くちゅ……と耳を塞ぎたくなるような音を立てて離れた、伊織の濡れた唇を目で追う。
「そろそろ時間ですね」
「……ん」
あんなにも焦がれていた相手との濃密な触れ合いに、浮かれていられたのは最初だけ。
この触れ合いは、俺の依存を抑えるためのもの。そのために、義務化されたもの。
欲深い俺は、こうして毎日義務化された触れ合いに、胸を締め付けられるような想いを抱いていた。
「じゃあ……行ってくる」
「はい、気を付けて」
ベッドから立ち上がり扉に向かう。
伊織に背中を向けると、自分への嫌悪に小さな小さな溜息をついた。
「大地」
あと少しでドアノブに手がかかる、そんな時。
呼ばれた声に反応して、振り向いたか、まだ振り向いていないか……その瞬間に。
「んう"!?」
いつの間にか真後ろに立っていた伊織にいきなり激しく口付けられた。
後頭部をしっかりと抱かれ、驚いた俺は抵抗も忘れてなされるがまま。
舌を絡め取られ、嬲られ、思わず喘いだ口から飲み下せなかった唾液が零れ落ちる。それを舐めあげられては、何度も何度も唇を合わせた。
「んうっ……んっ、んふぅ……!」
あまりの苦しみに思わず伊織を押し退ける。
「いっ、伊織! な、なんなんだよ……さっき充電は終わっただろ?」
ゼェゼェと肩で息をし涙目で言う俺に、伊織が悪びれる様子もなく言った。
「私の充電が、まだだったので」
目を見開き驚く俺に、オマケとばかりに触れるだけのキスを再び奪うと……まるで悪戯が成功した子供のように伊織が笑った。
END
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