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かくれんぼ
――もういいかい
――まあだだよ
裏の小さな児童公園から声が聞こえる。
小学校はもう放課後らしい。
この部屋にこもって何日が経っただろうか。
店は1週間休業のお知らせをしてあるが、あと何日残っているか、確認する気力もわかない。
かくれんぼなんかしてないで、出てこいよ。おまえには似合わないぞ。
もういいだろ、じらしてないで、返事してくれ。
いつも通り作りすぎた、おまえにしか食わせる気のない家庭料理が、鍋を占領して次が作れない。
片づけの苦手な俺のかわりに整理してくれていた部屋が、散らかり放題になってしまった。
おまえが気に入ってくれていた少し小太りの俺の身体が、寒くて寒くて、うずくまったまま動けないんだ。
そもそもな、今まで散々言ったじゃないか。歩道の信号は点滅しだしたら渡り始めず次を待てって。黄色信号で飛び込んできた左折車に巻き込まれるなんて、なんて自業自得。相手の運転手がかわいそうじゃないか。
あのとき、インク切れした俺のボールペンが恨めしい。そんなに急がなくて良かったんだぞ、バカ。
十年も一緒に暮らしたのに、葬式では弔問客にしかなれなかったよ。火葬場に向かう車を葬儀場の駐車場で見送っただけが、俺にできた精一杯。
部屋の中に溢れていたおまえの私物は、全部宅配業車のトラックで実家に向かう段ボールの中で。
死守できたのは、ふたりで使っていた安物のおそろいのカップだけ。
確かに、中古でも値が付きそうな良いものばかり使っていたけど、根こそぎ持って行かなくてもいいのにな。
広い部屋がガランとしてる。
隠れるところなんてほとんどないのに。
ほんと、どこに隠れてんだよ。
早く出てきて。
俺の凍える身体をいつもみたいにあたためて。
あれか。
お約束の問いかけをしないと、答えてくれないのか。
俺が見つけないと出てきてくれないのか。
じゃんけんで負けたわけでもないのに、俺が鬼なのか。
目をつぶって、部屋中に散らばった、上手に隠れるおまえの気配を追いかけて。
いくつ数えたら、言っても良いんだよ。ルールも何にも決めてないぞ。
頼むから、答えてくれよ。
――もういいかい
――もういいかい
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