1 / 1

かくれんぼ

――もういいかい ――まあだだよ  裏の小さな児童公園から声が聞こえる。  小学校はもう放課後らしい。  この部屋にこもって何日が経っただろうか。  店は1週間休業のお知らせをしてあるが、あと何日残っているか、確認する気力もわかない。  かくれんぼなんかしてないで、出てこいよ。おまえには似合わないぞ。  もういいだろ、じらしてないで、返事してくれ。  いつも通り作りすぎた、おまえにしか食わせる気のない家庭料理が、鍋を占領して次が作れない。  片づけの苦手な俺のかわりに整理してくれていた部屋が、散らかり放題になってしまった。  おまえが気に入ってくれていた少し小太りの俺の身体が、寒くて寒くて、うずくまったまま動けないんだ。  そもそもな、今まで散々言ったじゃないか。歩道の信号は点滅しだしたら渡り始めず次を待てって。黄色信号で飛び込んできた左折車に巻き込まれるなんて、なんて自業自得。相手の運転手がかわいそうじゃないか。  あのとき、インク切れした俺のボールペンが恨めしい。そんなに急がなくて良かったんだぞ、バカ。  十年も一緒に暮らしたのに、葬式では弔問客にしかなれなかったよ。火葬場に向かう車を葬儀場の駐車場で見送っただけが、俺にできた精一杯。  部屋の中に溢れていたおまえの私物は、全部宅配業車のトラックで実家に向かう段ボールの中で。  死守できたのは、ふたりで使っていた安物のおそろいのカップだけ。  確かに、中古でも値が付きそうな良いものばかり使っていたけど、根こそぎ持って行かなくてもいいのにな。  広い部屋がガランとしてる。  隠れるところなんてほとんどないのに。  ほんと、どこに隠れてんだよ。  早く出てきて。  俺の凍える身体をいつもみたいにあたためて。  あれか。  お約束の問いかけをしないと、答えてくれないのか。  俺が見つけないと出てきてくれないのか。  じゃんけんで負けたわけでもないのに、俺が鬼なのか。  目をつぶって、部屋中に散らばった、上手に隠れるおまえの気配を追いかけて。  いくつ数えたら、言っても良いんだよ。ルールも何にも決めてないぞ。  頼むから、答えてくれよ。 ――もういいかい ――もういいかい

ともだちにシェアしよう!