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第1話

一月一日の夜のこと。 この年末、俺、高遠颯斗(たかとおはやと)は生まれて初めて大学の同級生、花凛(かりん)ちゃんに勧められてBL小説というものを読み始めた。 オメガバースという、BL界ではここ最近、メジャーであるジャンルのものらしい。 男女の性以外に、優秀な遺伝子を持つα、一番人口数が多く平凡なβ、そして男女共に子どもを産むことができる希少数のΩ。この三つの性が存在する世界のお話しだ。 最初は、男が子どもを産むという設定に抵抗はあった。 だが、読み進めていく内に男同士の恋愛の、しかもαとΩにしかない運命の番というその尊い関係を持つ世界観に、あっという間に引き込まれていったのだ。 勧められたのは「キミは僕の煌めきスター」という不憫で切ない高校生の双子の話だった。 とにかくここへ出てくるαの星宮(ほしみや)煌輝(こうき)は、高校生のクセに“キング・ローズ”というスパダリで、いちいちカッコイイのだ。 とは言っても、最初は最下層のΩを下に見る鼻持ちならない最低なヤツなのだが。 主人公のΩである瑠輝(るき)への恋心を自覚してから、とにかく煌輝の愛が深いのだ。 海辺で引き離され、声を失った瑠輝が入院している病院へ煌輝が駆けつけるシーンは、つい朝まで読み耽り不覚にも号泣してしまった。 この二人には、何が何でも絶対に幸せになって欲しいのだと。 同級生の恋愛、いいなぁ。 高校生の頃なんて、バイトと勉強で恋愛なんて無縁だったからなぁ。 制服姿で自転車の二人乗りのシーンとか、憧れる。 つい無意識に、俺は翔琉と自転車の二人乗りを想像して、大きく被りを振る。 「マジでない。……ってか、翔琉の制服姿とか超違和感。きっと、学生時代の翔琉を俺は知らないからかな」 ベッドの上でゾッとする俺に、シャワーから戻って来た上半身裸の翔琉が声を掛けた。 「どうした? そんな恐ろしいものを見たかのような顔をして」 「いや、何でもないです。読んでいた小説が感動したので」 翔琉が撮影先から帰ってくる大晦日までに読み終えることができなかった俺は、独りになる瞬間を狙って、その先を少しずつ読み進めている。 今もカフェでの新年会を終え帰宅し、めずらしくそれぞれシャワーを浴びることとなったタイミングで、俺は続きをベッドルームで読んでいたのだ。 「へぇ。颯斗も小説を読むのか」 雫がまだ残る前髪をそのままにし、翔琉は俺の隣りへ腰かける。 「もしかしてバカにしてるんですか?」 ムッとする俺の携帯電話を、興味深く覗き込む。 BLを読んでいることを知られたくなくて、俺は咄嗟に携帯電話を後ろ手で隠す。 翔琉と付き合っている時点で、自分たちもBLだということに、全く気が付いていなかったのだが。 「バカにしていない。さすが現役の大学生だな、と思って感心しただけだ。どれ、何を読んでるんだ?」 隠した手を強引に翔琉は自身の目の前へ持っていく。

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