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コーヒーに漬物

 週末、いつもの朝。  全裸のまま広いダブルベッドから下りて、近くに放り出してあるTシャツとパンツを身に付ける。着てからTシャツは自分のじゃないと気付いたけれど「まあいいか」と、まだベッドの上で完全には覚醒していない恋人を見た。  恋人は朝が弱い。仕事のある日は何とか起きているけれど、休日はいつまでも起きては寝てを繰り返している。さっきも少し覚醒した恋人に抱き締められ、昨日散々したはずなのに元気になっている股間を押し付けられまさぐられて、その気になってきた所で寝落ちされた。  自分は一度起きてしまうと眠れない性質なので、付き合い始めならまだしも、同棲して一年以上経っているのに一日ダラダラと恋人に付き合うのは辛い。もう10時だし、起きてもらおうとコーヒーを淹れにキッチンに向かう。  コーヒー好きの恋人はきちんとドリップして淹れてくれるが、面倒くさがりの自分はコーヒーのドリップバッグがせいぜいだ。  インスタントじゃない所が愛だよね。  鼻歌を歌いながら冷蔵庫を開けて、何か摘まみたいなと昨日食べ残した漬物の小皿を出す。食べるのは自分だけだしおにぎりでいっか、と漬物を具におにぎりを作ろうとした所で手が滑る。 「あ……」  せっかく淹れたコーヒーに漬物が浮かぶ。 「まぁ、いっか……出しとけば」  コーヒーから落とした漬物を摘まみ出し、念の為に少し飲んでみる。 「ん、大丈夫だな」  アテにならない味見をして、自分のおにぎりを握ってそのまま食べながら寝室にコーヒーを運ぶ。 「起きた? 起きてる? 起きろー!」  ベッドの上で半覚醒の恋人に声を掛ける。 「コーヒー淹れたの飲むだろ?」  ベッド横のサイドテーブルにコーヒーを置いて、ベッドに腰かけおにぎりを食べると恋人が後ろから腰に抱きついてくる。 「飲まないの? 冷めちゃうよ」 「ん、ちょっと補充……。あー、幸せ」 「飲まないなら飲んじゃうよ?」  少し怒った様に言うと、慌てて「飲むよ」と起き上がってコーヒーに手を伸ばした。  裸でベッドに起き上がったままでコーヒーを飲む恋人を眺める。無造作に起き上がったまま、裸の足が半分だけ覗いているのがセクシーだ。  格好良いにも程がある! と心の中で悶えていると「ん?」と恋人が首を傾げる。 「これ、いつもより何かコクがあるね」 「そう? いつも通りだけどな……愛の分じゃない?」  漬物のことは空惚けて誤魔化す。 「そっか、ありがとうね」  恋人は首を伸ばしてちゅっと髪にキスをする。くすぐったくて嬉しくなり抱きつこうとすると「コーヒー零れる!」と待てをされる。うずうずしながら待ってると、再び「ん?」と恋人が首を傾げた。 「なんか入ってる……、なんだこれ?」 「愛情?」 「んなわけあるか! ……大根ぽいな、漬物か?」 「あ、バレた。取ったはずなんだけどな」  悪びれずに言うと「こらっ」っとおでこを小突かれる。 「本当、雑なんだから……」 「ごめんて~。ちょっと落ちちゃったんだよ」 「反省、してないな?」 「してる、してるって!」 「本当に?」  コクコクと頷く。 「ふーん、……じゃあお詫びできるよね?」 「え!?」 「できないなら、お仕置きだけど?」 「それ、何か違うの!?」 「まぁ……する事は同じだけど、気持ちの問題かな。どっちがいい?」  えーと……。  迷いに迷って、小さな声で答える。 「……おしおき?」 「ほんと、強引なの好きだよね……」  クスリと笑い、恋人が覆い被さってきた。

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