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1月17日

昨日、初めて日記を書こうと思った。 日記を書くと決めたのは、そうしなければ終わってしまうと思ったからだ。 この日記を読むことができる存在がいるのかはわからない。 読んでもらえたとして、それが俺の望む人物とは限らない。 ……むしろ逆か。 この日記を読むことができる存在。そんなのは十中八九ロクなもんじゃないだろう。 ゲーム開発者たち。きっとそうだ。「開発者」がどういう存在なのか想像もつかない。狂ったゲーマー?天才ハッカーたち?アメリカの兵器開発の一貫?宇宙人って言われたって信じるだろう。どちらにしても開発者は俺の敵だ。この日記を見ながらニヤニヤ楽しんでいるに違ない。自分たちの狂ったゲームの中で虫けらのように這いずり回る人間を指さして笑っているだろう。この日記というシステムもそのためのものに違いない。  俺が狂っているのかもしれない。それとも実は死んでいるとか、意識不明の重体で見ている夢だとか。いっそのことそうであればどれほど救われるか。そうであるなら、俺の主観の問題であるなら、この現実をコントロールする術があるかもしれないからだ。  だがその可能性は万が一にもないだろう。  俺は…いや、俺たちは、見知らぬゲームの中に放り込まれた。  まだパンがひとつ余っている。腹は減っていて体はへとへとだが、ウィンドウを開け続けたことで餌がもらえた。初めて日記を書いた得点でも何かを貰えるかもしれない。動くのはそれからにする。  だからまず、日記の一番最初は俺の現状を説明することにする。  この日記を読んでいるのが味方なら、この状況を打破する一助になるかもしれないからだ。  まずは俺の紹介をしよう。  とはいっても特に説明するつもりはない。俺がどこの誰であるかよりも、今どういう状況にあるかが重要なのだ。  俺は(地名)の(高校名)でサッカー部だった。基本緩いテンションだったし、俺もベンチには入っていたけどスタメンってわけではなかった。緩いテンションの部員数もそこまでいない部活動で、スタメンに入れない程度の実力といえば、俺がどんだけ残念かわかるだろう。せめてもうすこし真面目にサッカーやってればこうなっても何かできたのかもしれない……。  俺がこの世界にやってきたのは夕方、部活帰りだ。  この世界にきて7日、ちょうど一週間になる。  最初は広場みたいなところにいた。地面は石で、正面には時計塔。中央には噴水。一見西洋っぽい景色だったけど、周りにいた人たちはみんな日本人っぽかったし、遠くに見えるビル群は海外のものというよりも日本っぽかった。  そう、最初は俺一人じゃなかった。何人かいて、話す時間もあった。20人~30人くらいだろうか。    だいたいの人が夕方にここにやってきたみたいだった。でも朝に来たという人もいた。見るからに色んな人がいた。女性、男性、俺と同い年くらいの高校生、子供、老人まで。誰もがこの状況にピンときていなくて、でもパニックになるには現実味がありすぎて、とにかくよくわからないまま雑談をするような時間が過ぎた。  状況が変わったのは、時計塔の針が六時を指して、鐘の音が鳴ってからだ。  とにかく時計塔に行ってみるか、と誰かが提案して、皆なんとなく一人になるのは怖くて、率先して時計塔に行く人たちについていった。  俺も勿論そうした。  あとのことは…正直覚えていない。  ゾンビがいた。時計塔の入り口に、ちょうど真ん中に、突っ立っていた。  みんなそれがゾンビだと解った。  アイ・アム・ヒーロー、ワールド・ウォーZ、ウォーキングデッド……枚挙にいとまがないそういったゾンビ映画(漫画)に出てくるゾンビそのままの存在が立っていた。  それで、バカげたことに、ゾンビが立っている少しに、「zombie!」というタイトルがでかでかと乗っていた。時計塔。真ん中に突っ立つゾンビ。それから血まみれの「zombie!」というタイトル。   「扉が開いているんだ」  と、隣で誰かがいった。ああそう、そうだ。誰かがそう言ったんだ。それで俺も扉が開いていることに気づいた。というかそこで初めて扉を見た。だから最初から扉が開いていたのか、それともゾンビが扉を開けたのかわからない。  ……クソッ!それを覚えていれば、ゾンビが扉を開けて入ってこれるのかどうかがわかったのに!  とりあえず記録をつづける。そういったのは多分男だ。そしてそれはその通りだった。時計塔の入り口の扉が開いていた。ゾンビはそこから這い出てきたのだ。よく見れば二人いた。いや、二体?二匹?ゾンビってどう数えるんだ?知らないからとりあえず匹を使う。  2匹いる、と思った次の瞬間には3匹いた。入口の暗闇からゾンビがどんどん出てきた。逃げないとと本能的にわかって、俺は逃げ出した。たぶん俺の動きが一番早かったと思う。あとはパニックだった。  何人かは捕まったと思う。後ろを振り返る余裕なんてなかったから、どうなかったかは知らない。だけど鼓膜をつんざくような、空間を切り裂くような断末魔が耳にこびり付いて離れない。あのときのことはよく思い出せないが、あの声だけは何度も思い出す。  とにかく俺は走った。悲鳴と怒号、苦痛の叫びが蔓延する広場を一直線に切り裂いて、ビル群へと続く道を走った。だけどビル群に行く途中で、道を蠢く影に気づいた。それは黒いゴマが風に揺られているように見えた。ソレ、が何かを考える前に俺は踵を返して、ビル群を左手、広場を右手にして走った。ビル群の方から悲鳴が聞こえたから、あれはきっとゾンビか……少なくとも、それに近い存在だったんだろう。    そして俺はここにいる。  一階がコンビニのマンションだ。コンビニっていったって一階にはゾンビが少なくとも2体いる。あそこで食料を手に入れることができればいいけれど、そうなる前に捕まって食べられるのがオチだろう。  コンビニの横を通ってマンションの中に入り、マンション内の住人たちを交わして入った部屋はたまたまゾンビがいなかった。だからここに籠城した。  今日で7日目。  ウィンドウに気づいたのは、部屋を漁って缶詰を見つけたときだ。ピアノの上で指先を転がしたようなぽろろん、という音がしてウィンドウが開いた。 「缶詰」を手に入れた。 よく読むと「缶詰」の下に説明が書かれていた。最後の文に「食べることができる」と書いていたので食べた。 そしてシステム「日記」が解放された。 日記が解放されるまでとか、どうしてこの世界がはゲームの世界だと思ったのかとか、そういう話はもう少し後にしよう。この7日までにもそれなりに色々あったけど、もう疲れた。  それに俺が今すべきは、まだ他にある。 ウィンドウの中には「パン」「たまごサンド」「水×2」「★(ブランド名)のTシャツ(82%)」「★部活のジャージ(12%)」「★部活のパーカー(30%)」「★(ブランド名)のシューズ(82%)」「(ブランド名)のサッカー用スパイク(12%)」 特殊装備 なし 特殊能力 なし 実績 ・「この一歩は人類にとっては無価値だが、君にとっては大きな一歩だ」  ウィンドウを1回開く …… 「日記」を書くことができる ・「そろそろ君もビギナーか?」 ウィンドウを100回開く …… パンをひとつプレゼント これが今の俺の全てだ。 ★マークは装備しているかしていないか。()内は壊れるまでの表示。どれもこれも壊れるまであと少しだ。壊れたらどうなるのかは知らない。(外に出る前に試してみるべきかも) さいわいなことに、この部屋の主は俺と同じくらいの背格好だったらしい。靴のサイズもぴったしだった。服のサイズもそれほど変わらないだろう。 今日はもう少しここで探索をつづけて、役立つものを見つけようと思う。 まだやるべきことはいっぱいあるが、まずはあのコンビニから食料を得ることを目標にしようと思う。じゃないとそろそろ飢え死にだ。 それではまた明日。

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