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第2話 別れの日

行ってしまった…… 全てが終わってしまった…… もう思い残すことは何も無い…… 彼は最高の笑顔を最後に僕に残してくれた。 僕はまた、あの笑顔に出会える日が来るのだろうか? そしてその時は、 真っ直ぐに彼の目をみる事が出来るのだろうか? 僕はそのままベンチに腰を下ろし、 ポケットの中から携帯を取り出した。 暫く祈る様な気持ちで携帯を抱きしめた後、 登録先の一つの番号を押すと、 “プルプルプル~” と発信音が3回鳴ってあいつが出た。 「どうしたんだ? もう謝恩会は終わったのか?」 「イヤ…… 早めに出たんだよ。 裕也の方はもう終わったの?」 「いや、着信音を見たらお前だったから ちょっと外に出て来たんだよ」 「そうか…… 確か幹事だったよね。 忙しいのにワザワザごめん……」 「良いんだよ。 ちょっと外の空気吸いたかったしな。 それより一体どうしたんだ? 声に元気が無いな?」 「ハハ、元気が無い訳じゃないんだけど、 実はね……」 「ん?」 「今まで要君と一緒に居たんだ……」 「要とか? もしかしてお前…… 要に告ったのか?」 「……ごめん……」 「イヤ…… 受けて立つって言ったのは俺だったからな。 それで……要は何て言ったのか聞いても良いのか?」 「ハハハ、それ聞く? もう分かってるんでしょ?」 「……ごめん……」 「そこ、裕也が謝る所じゃ無いでしょ? あのさ……」 「どうした? 要に告った事は置いといても、 今日はお前、ちょっと変だぞ?」 「変…… そっか…… そうだろうね」 「何だよ? どうかしたのか? まだ何か言いたい事でも有るのか?」 「裕也…… これまで僕を支えてくれて有難うね」 「何だよ急に、 気持ち悪いな〜 お前、何か企んでるのか?」 「企み? ハハハ、だったら面白かったんだけど…… 実を言うと僕ね、アメリカに留学することに決めたよ」 「留学?」 「うん、3年生になった時からずっと迷ってたんだ」 「お前、そんな事一言も……」 「そうだね、本当は色々と相談したかったんだけど、 君はすごく要君に近かったから…… 僕ね、要君の事好きだって分かった時から願掛けしてたんだよ」 「願掛け?」 「まあ、要君にもう一度好きになってもらえることは僅かな望みだったけど、 卒業式の日に要君に告白しようって…… そしてそれでも振られたら留学しようってずっとそう決めてて…… 手が届かない所へ行ったら何とかなるかな?  ちゃんと諦めきれるかな?ってね……」 「そうか…… こればっかりは俺も譲れないからな…… 助けてやりたくても無理だわ……スマン」 「ハハハ、分かってるよ」 「で? いつ発つんだ?」 裕也のその問いに、 「明日の便で……」 とぼそりと告げた。 「は? 明日? お前、急だな。 まあ、お前らしいと言ったらお前らしいけどな」 「要君に僕の想いをぶつけた今となってはもう思い残す事は無いし、 これ以上要君の顔見るのはつらいからね。 もう一杯、一杯で…… 今思えば良くここまで持ったなって…… ハハ…… もしかしてこれが本当の初恋だったのかな?ってね。 まあ、初恋は実らないって言うしね…… でもさ、これって僕達皆、初恋なのに、 僕だけ除け者って不公平じゃない? あ、待って、少なくとも要君は違うか!」 裕也に対する最後で最後の意地悪だ。 思惑通り裕也はヤキモチを焼いてくれた。 それに少しの優越感を持つことで自分の心を保った。 「お前な~」 「ハハ、少しくらいは優越感を持ってないとね。 まあ、気休め程度に思ってるんだけど、 もしかしたら僕の運命はアメリカに居るかもだし…… 勉強もだけど、愛するって事が分かった今、 恋愛にも積極的に少しずつ頑張ってみようかなって……」 「そうか……正月なんかには帰って来るのか?」 「イヤ……多分暫くは帰らない…… 両親もそれで構わないって言ってくれてるし…… 恐らく7-8年は向こうで頑張ると思う。 目標のMBA取るまでは……」 「そうか、余り力になってやれなくごめん。 でも、何かあればすぐにでも連絡しろよ。 じゃあ明日は見送りは……」 「いや、要らない。 決心が鈍るからね。 ねえ裕也、絶対、絶対要君を幸せにしてあげて。 あんなに純で一途な子は他に居ないよ」 「お前に言われなくても分かってるよ」 「ハハ、そうだね、 裕也、僕は君の事も友として凄く愛してるんだよ。 本当に君が僕の幼馴染みで良かったよ。 ずっと、ずっと一緒に楽しかった」 「何だよ、今生の別れみたいに……」 「気分はそんなんだよ。 でも、ちゃんと帰って来るから! くれぐれも、要君を頼んだよ。 それじゃあ……」 「ああ、また会う日まで…… 俺も頑張るから、 浩二も体に気を付けて頑張れよ、じゃあな。」 そうやって裕也と会話を終えた後、また僕は暫く泣いた。 夜の公園で誰も周りに居ないのに、 声を殺して泣いた。 あれだけ要君と一緒に泣いたのに、 僕の涙はまだ枯れていなかった。 小さい時から共に支え合って育ってきた幼馴染…… 一緒に親に隠れて何度も運命探しをしたっけ…… 怒られたときは庇って庇われ…… 何度もお互いの家を行き来したっけな。 好きな人が出来れば一番に教え合いっこしてたのに、 今回ばかりは違ったな…… それぞれにずっと秘密を抱えて…… 本当、同じ人に本気の恋をするなんて、 二人でバカやってた時は思いもしなかったよ…… まさか学校でこんな出会いをするなんて…… こんな恋愛をするなんて…… 今になって思い出すのは、君の事ばかり…… 初めて恋をした校舎…… 毎日待ち合わせをしたこの公園…… 学校への一本道…… 笑顔が溢れていた美術部・部室…… 全てを置いて行くのは後ろ髪惹かれる思いだ。 出来れば離れたくない。 自分のこの目で要君が幸せになるところを見守っていたかった。 彼の大人へと成長する階段を見守っていたかった。 でも今の僕じゃ無理だ…… 要君を困らせることは目に見えている。 いつかまた、彼に頼ってもらえるような男になるよう、 一回り、イヤ、二回りも、三回りも大きくなって戻ってこよう! あの日僕はそう誓った。 それが8年前、僕が高校を卒業した日…… そして最愛の君に別れを告げた日。

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