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第15話 ロリコン疑惑
陽一君による突然降って湧いた、
“かなちゃんはお兄ちゃんじゃ無い”
宣言。
近くで陽一君を見つめた時に、
少しだけ、本当にちょっとだけ湧いた疑惑……
でもそれは頭の中で打ち消して、
「じゃあ、陽一君は、
かなちゃんが前に話していた従弟かな?」
と尋ねた。
要君は更に挙動不審になっている。
僕の推測は会ったているかもしれない……
そして陽一君の爆弾宣言。
「かなちゃんはね、僕のお兄ちゃんでも、
従弟でもなくて、僕のママだよ」
“え---っ?”
僕の驚きと疑問は陽一君の言葉で急に現実に引き戻された。
ほんのちょっとだけ、その事が頭をよぎったけど、
出来るだけ打ち消そうとしていた。
そうは思っても、まさかと持ったから。
じゃあ、父親は?
裕也以外にありえないと思うけど、
裕也と一緒に居なさそうだし、
連絡さえも取って無さそう……
一体……?!
年の為に要君に尋ねてみた。
「要君、君、裕也以外の人とフランスで結婚したの?」
僕の質問に要君は言葉を濁した。
だから卑怯だとは思ったけど、
陽一君に尋ねた。
「陽一君はすごいお利口なんだね。
だから、僕に教えてくれる?
陽一君のパパもフランスからやって来たの?」
その問いに要君は声を荒げて僕の名を呼んだ。
陽一君は少しびっくりしたようだけど、
直ぐに気を持ち直して悲しそうな顔をした。
そして僕に教えてくれた。
「僕ね、パパいないの……
パパには会えないの……
かなちゃん、パパの事、教えてくれないの!」
陽一君の叫びは、
僕にパパの事知ってたら教えて
と言う様な意味が含まれているように感じた。
そこで僕は、僕の疑惑を確信にするために
陽一君に再度尋ねた。
「ねえ、陽一君のお年はいくつ?」
すると彼は、
「僕、5歳です!」
と元気よく、はっきりと答えてくれた。
僕がチラッと要君の方をみると、
彼は上を向き、静かに目を閉じた。
これで僕の疑惑は確信に変わった。
「要君、僕達、少し話し合う必要がある様だね」
彼の肩にポンと手を置きしっかりと彼を見据えると、
彼は堪忍したとでもいうように、
僕を家へと招待してくれた。
僕が要君の家へ行くと言う事に
陽一君は大喜びだった。
彼のおもちゃを貸してくれると言う事だったので
僕はお礼に陽一君に跪いて手を差し出した。
「さ、王子様、一緒に行きますか?
ナイトがご案内いたします」
陽一君は目をパーッと輝かせて、
僕の手を取った。
その途端、また僕の心臓が脈打ち始めた。
ドクン……
“あれ? なぜ?
健康診断行った方が良いのかな?
でも持病も無いし、家系に心臓の悪い人は……”
心なしか、陽一君の手をとった僕の右手が熱い。
“熱が?
でもそんな感じではない。
きっと久しぶりの要君のお宅に緊張しているんだ。
きっとそうに違いない……”
僕は早る心拍を治めるように
陽一君の小さな柔らかい手をギュッと握りしめた。
「ねえ、矢野先輩、ナイトって何?」
キラキラの瞳で僕を見上げる陽一君が凄く可愛くて、
食べてしまいたいくらいだった。
「ナイト?
ナイトはね、王子様を守る騎士だよ。
王子様が大変な時に
いつでも駆けつけて王子様の為に戦うんだよ」
そう言うと、陽一君は最高の笑顔を僕に見せてくれた。
まだ会って10分と経って無いのに、
もう既に彼が愛おしくて、
心の底から彼を守りたいと思った。
そしてそう思った自分にびっくりした。
何て父性本能!
その時は本気でそう思った。
でもその後の彼の告発には参った。
「じゃあ矢野先輩は僕のナイトだね。
ママが怒るときは何時でも僕を助けに来てね!」
そう言って陽一君は、
どのようにして要君に叱られるかを、
僕に力説してくれた。
僕が要君を横目で見ると、
彼はバツが悪そうに照れていた。
そこは僕が旨い具合に陽一君に説明してあげた。
要君が何故陽一君を怒るのか。
頭のいい陽一君は直ぐに理解していた。
そして僕は陽一君に、
「僕はね、
陽一君がお友達にいじめられたり、
誰かに傷つけられたりした時に、
陽一君を守ってあげるから……
僕はそんなナイトになるから!
陽一君に何かあったら直ぐに飛んでくるから!
だから何かあったら、僕に直ぐに言うんだよ?」
と言うと陽一君は、
「うん! 約束だよ!」
と小指を差し出して指切りげんまんした。
要君の家に着くと、
要君は直ぐに僕をリビングに通してくれた。
ご両親はまだ帰ってきてなかった。
暫くベランダに出て懐かしい景色を見ていたら、
後ろから要君が僕の近況を尋ね始めた。
それで僕達はリビングに戻り、
ソファーに腰かけた。
途端、陽一君が速攻でお手洗いから
駆け出てきて、
「遊ぼ~」
と、おもちゃをたくさん持ってきてくれた。
遮る要君をさらに遮って、
「僕の部屋には、
もっとおもちゃがあるから、もっと取りに行こう!」
と、陽一君は僕の手を引いて、彼の部屋へと向かった。
“ここは……”
僕に取っての開かずの間……
この家に在って、一度も足を踏み入れたことが無かった場所。
そう、要君のご両親が、
もし、もう一人できたらと空けていた部屋。
この部屋だけは見たことが無かった。
中は既に陽一君仕様に出来上がっていて、
きっと要君のお父さんがやってくれたんだろう。
何処からどう見てもそんな感じだった。
凄いおもちゃの山の中に、ここ、あそこに、
陽一君のお祖父ちゃんに当たる、
ベテラン俳優の蘇我総司のポスターと写真が……
僕は思わずプッと笑った。
お父さんの変わらない仕様に、
要君の両親と会う事に緊張していた心がとても軽くなった。
「矢野先輩!
ここに座って!
これね、飛行機!
矢野先輩、飛行機に乗ったことある?
雲がね、綿菓子みたいなんだよ!
僕ね、飛行機の窓開けようと思ったんだけど、
ダメだった……」
そう言う陽一君が可愛かった。
「陽一君は綿菓子好きなの?」
そう尋ねると、彼は満面の笑みを浮かべて、
下をペロッと出して舐める真似をした。
その動作を見た瞬間、
僕の中で何かが崩れ始める音を聞いたような気がした。
途端に体が熱くなった。
“ヤバイ……
何だこれ……”
「陽一君、ちょっとゴメンね」
そう言って立ち上がると、
窓の所に寄って、
窓を全開にした。
“フーッ、フーッ”
少し息が荒ぶって来たけど、
窓の所に立ち外を眺め深呼吸をしたら収まり始めた。
「矢野先輩どうしたの?」
陽一君が心配そうに僕を見上げていた。
「大丈夫だよ。
ちょっとお外の空気が吸いたかったの。
ほら見て! 飛行機がすぐそこに見えるよ!」
そう言って僕は陽一君を抱き上げた。
空に飛ぶ飛行機を見た陽一君は、
もう一度飛行機に乗りたいと凄くはしゃいでいた。
そんな陽一君が可愛くて、可愛くて、
僕は思わず陽一君を抱きしめた。
最初は陽一君もびっくりしていたけど、
「矢野先輩大好き!」
そう言ってギュッと抱きしめ返してくれた。
それが愛しくて愛しくて、
何故会ったばかりの好きだった人の子供に、
こういう感情を持つのか不思議でならなかった。
でも何だか、とても落ち着く感じだった。
陽一君と飛んでいく飛行機を眺めながら、
“ロり疑惑確信だな……”
そう思った瞬間だった。
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