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第33話 ケーキバイキング

今日は朝からソワソワとしていた。 果たして木村君は来てくれるだろうか。 確かに手応えは有った。 時計を見ると、 もうソロソロ要君と陽一君が来る時間。 僕はもう一度地図を確かめた。 その時インターホンが鳴った。 要君と陽一君が来たんだな。 そう思いながらドアを開けると、 そこに立って居たのは陽一君だけだった。 「おはよう先輩!」 爽やかに笑った顔は前に会った時よりも、 遥かに大人びて居た。 久しぶりにあった陽一君にドギマギとしながら、 「おはよう」 と返すのが精一杯だった。 子供の成長は早い。 とても13歳には見えない。 「おはよう先輩! かなちゃんは今お父さんを諫めてるから直ぐに来るって…… ほんと、お父さんってかなちゃんいないと、 直ぐに機嫌悪くなるからね~」 「ハハハ、裕也って相変わらずなんだね。 ホント、要君命だよね」 そう言ってると要君が、 「ごめ~ん、待った? もうほんとに先輩ったらグチグチ、グチグチと! 全然僕から離れようとしないんだから! 特に矢野先輩と出かけるってなると、 ホントいい加減にしてって感じ!」 と言いながらも、顔は照れていた。 「何それ? のろけなの?」 そう言うと、 「へへへ~ 矢野先輩だから言えるんですよ!」 とやっぱりのろけだった。 僕は陽一君と目を見合わせると、 目で合図した様に微笑み合った。 「じゃあ、行きましょうか?」 僕が声を掛けると、 「待ってました! ケ~キ! ケ~キ!」 と要君は嬉しそうだった。 「かなちゃん、ちょっと恥ずかしよ。 いい年して、ケーキ、ケーキって……」 「え~ 陽ちゃん僕の息子なのにテンション低いな~」 と二人の言い合いも微笑ましい。 僕はこの家族が本当に大好きだ。 2人を眺めていると陽一君が、 「先輩、今日は爽やかで素敵な格好ですね」 と僕に耳打ちして来た。 実を言うと、若い子達に負けない様にと 少し若作りをしたことは否めない。 少しでも若く見られたいと、 ファッションには気を使っている。 今朝は何度も鏡の前に立った。 鏡をジーっと見て見ると、 皺こそまだ無いが、 明らかに年を取って行っている事は分かった。 その時に思った事は、 “やっぱり陽一君に恋をすることは無謀なのだろうか” と言う事。 陽一君の事を考えると、 最近は落ち込むことが多かった。 やっぱり僕の負のループは そこがツールになっているのだろうか…… “年の差……” どんなにがんばっても縮むことの無い年の差。 そう思うと、何度も深いため息を付いた。 でも陽一君のコメントに、 落ち込んでいた気持ちが高揚し、 僕は舞い上がってしまった。 「木村君、来てくれるかな?」 その問いに陽一君も、 「来てくれると良いね」 と答えてくれた。 要君はその後ろを、 ずっとニヤニヤとして付いてきた。 バイキングに着くと、 木村君はまだ来てい無さそうだった。 「まだ10分ほどあるから僕は外で待ってみるから、 2人は先に行って席を取っておいて」 そう言うと、二人は早速中へと入って行った。 前の花壇に腰を下ろして木村君を待っていると、 割と多くのカップルが入って行った。 あの子達が言うように、 男でも入り易そうだな、などと思っていると、 建物の陰から、チラチラとこっちを伺う人影が見えた。 そこまで歩いて行くと、 僕に気付き、その人はサッと陰に隠れた。 「あ、やっぱり木村君だ! 待ってたんだよ~ 来てくれて嬉しい! 佐々木君も、彼の息子さんももう来て席を取ってるよ。 二人共木村君に会えるのを楽しみにしてるよ!」 そう言って、 彼の手を引いてバイキングに入って行った。 僕に一番に気付いた陽一君が、 「先輩! こっちだよ!」 そう言って手を振った。 2人の所へ行くと、早速木村君が、 「初めまして、 木村です。 先日はお世話になりました。 今日はお招きありがとうございます」 と挨拶をした。 割と礼儀正しい子だ。 「さ、座って座って。 もう料金は支払ってあるから、 好きなのドンドン食べてね。 ドリンクも飲み放題だよ!」 そう要君がいった。 「え~ もう払っちゃたの? ここは僕が払うって言ったのに~!」 「大丈夫ですよ、先輩、 今度の付けにしておきますね。 それで陽ちゃんをどんどん連れ出してください!」 要君がそう言うと、陽一君は照れたようにして木村君に、 「あの…… 僕、佐々木陽一と言います。 第5中学の一年生です。 宜しくお願いします」 と挨拶していた。 木村君も、 「木村葵です。 第8中学の2年生です。 宜しくお願いします」 と挨拶し合っていた。 取り敢えず、顔合わせは旨く出来たみたいだ。 「じゃあ、木村君、 一緒にケーキ取りに行こうか?」 陽一君がそう誘うと、 二人一緒に席を立ってケーキを選びに行った。 彼らが立ち去った瞬間、 僕は要君に脛を蹴られた。 「痛っ! ちょっと~要君、急に何~」 「先輩、酷いですね、 陽ちゃんの前で木村君と手を繋いでくるなんて…… やっぱり油断大敵ですね!」 そう言って要君はプンプンしていた。 「待って、待って! それって、木村君が逃げない様にでしょ~ それに陽一君の前だと どうして手を繋いじゃダメなの~?」 「多感な年ごろなんです! 何でも自分だけの特権だと思ってる大好きな矢野先輩が 他の人とイチャイチャするのは見たくないんです!」 そう言う要君のセリフは嬉しかったけど、 やっぱりそれって親戚の叔父さん感覚なのかな? という思いが過った。 でも、そこは素直に、 「以後気を付けます!」 そう言って僕は頭を下げた。 それを要君がよしよしと僕の頭をポンポンした。 それをタイミング悪く?ケーキを取って 戻って来た陽一君に見られてしまった。 「何いちゃついてるんですか! 早くケーキ取りに行ったらどうですか? かなちゃんも早く! 一杯美味しそうなのあるよ!」 と陽一君の機嫌が少し悪くなったような気がした。 でも木村君と楽しそうに話す姿はそうでもなさそうだ。 「じゃあ、僕達も行って来るから、 2人で話でもして待っててね」 そう言って僕と要君はケーキとドリンクを取りに行った。 戻ってくると、 陽一君と木村君は凄く打ち解けた様にして話をしていた。 僕と要君が席に着くと、 それぞれに簡単に自己紹介していった。 「僕ね、これだけ男性のΩが揃う事は余りないと思うんだ」 そう言うと、要君がうん、うんと頷いていた。 「折角知り合えたんだから、 何でも聞きたい事は聞いてね。 特に要君は大先輩になるから!」 そう言うと、木村君はコクコクと頷いた。 「僕の名前はもう知ってると思うけど、 矢野です。 この中で唯一のαで~す。 要君とは高校の時の先輩後輩でね、 もう二人で色んな事経験したよね~」 僕がそう言うと、 「ちょっと先輩! 何言ってんですか! 誤解を招くような変な言い方しないで下さい! 全く、全然違うんだよ。 こんなオジサンの言う事は軽く聞き流してね。 僕は佐々木要。 Ωで正真正銘、陽一を産んだ男性Ωです」 と要君が自己紹介を始めた。 「あの…… 男性でありながら子供を産むって 抵抗ありませんでしたか?」 木村君が唐突に質問を始めたので、 ネックはそこに在るのかなと思った。 「う~ん、はっきり言うと、 余り意識して無かったかな? でも、運命の番は絶対見つけるぞって 息んでたけどね~」 「そうだったよね。 要君、本当に頑張ってたよね」 「先輩だってそうじゃないですか~! 小さい時から運命の番を探してたでしょう?」 要君がそう言うと、木村君が、 「佐々木さんってご主人と運命の番なんですか?」 と尋ねた。 そこで僕は彼が運命の番と言う言葉に 異常な反応を示した事を思い出した。

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