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第73話 隠された真実

皆が食卓に着くと、 何だか異様な雰囲気が醸し出されていた。 “佐々木君の言っていた辛気臭いって、 この事かな?” 僕はそう思いながら周りを見回した。 佐々木君のお父さんとお兄さんはまだ帰ってきていなかったけど、 お母さんは夕食の席にいた。 彼のお母さんはおとなしい感じの人で、 居るのか、居ないのか分からないような人だった。 実際に今日は一日家にいたらしいけど、 佐々木君はお母さんの紹介は飛ばして、 祖父母へ僕の紹介をしたので、お母さんとは夕食の時初めて会った。 お父さんやお兄さんもすぐに帰ってくるようだけど、 その時はどちらもまだ帰ってきていなかった。 「それで陽一君は学園ではどんなことをしてるの?」 お祖母さんが訪ねた。 「僕って取り分け、これっていう特技がないので、 図書委員に落ち着いているんですけど、 本当は学園に入れたことでさえも奇跡みたいなものなんです」 「あら、あら、謙遜さんね。 奇跡であの学園に入れるってことは無いのよ。 これも一重に陽一君の努力の賜物ね」 「いえ、いえ、僕なんかより、 悠生君の方がもっとすごいんですよ。 新入生の中で一番賢いんですよ!」 「そうよね、悠生君もとても頑張り屋さんだからね。 二人ともいい子で嬉しいわ」 「それで、陽一君にはご兄弟はいらっしゃるの?」 「はい! 妹が一人います! 愛里っていって、今11歳です」 「あら~ 女の子なのね。 ぜひ会ってみたいわ~」 彼女がそう言った途端、 「お祖母様!」 と、佐々木君が横やりを入れてきた。 「あら、あら、ごめんなさいね。 ちょっとはしたなかったわね。 家は男所帯だから、女の子と聞くと、心が焦ってね」 「あ、僕分かりますよ! 家でもあ~ちゃん、あっ、僕たちは彼女の事を あ~ちゃんって呼んでいるんですけど、 あ~ちゃんも初めての女の子なんです。 僕の父親にそっくりで、 あ、そう言えば、お祖父さんも僕のお父さんにそっくりなんですよ! 同じ苗字だし、どこかで繋がってるのかもしれませんね!」 そう言うとお祖母さんが、 泣きそうな顔をしてウンウンと頷いていた。 「それでそのあ~ちゃんなんですが、もうできた子で、 僕が霞んでしまうんですが、 パパっこで、お兄ちゃん思いで、とっても優しい子なんですよ! 紅一点なので、もう皆彼女にメロメロです!」 「分かるわ、分かるわ、 本当に会ってみたいわね~ きっと可愛いんでしょうね」 「兄の僕が言うのもなんですが、 あ〜ちゃんはとても綺麗な子なんですよ。 サラサラの黒髪に色白で、 本当に11歳?って疑うくらいなんです。 お父さんの影響で学校ではバレーボールをしているんですよ」 「あら〜 本当にお父さんみたいなのね」 この時、 「ん?」 と思ったけど、あまり気にせずに話を続けた。 「そうなんです。 顔もうちの父親似で、そう言ったら佐々木君のお祖父さんにも似てますね? 世の中3人似てる人がいるっていうけど、こんな身近にいるなんて凄い偶然ですね」 そう言うと、お祖母さんは益々あ~ちゃんに対して興味を持った。 「あ〜 そんなにお祖父さんにも似てるなんて、益々会ってみたいわ〜」 「じゃあ、今度お邪魔するときに連れてきましょうか? 佐々木君が招待してくれればなんですが…… エへへ」 「あら、あら、良いのよ、良いのよ。 悠生が居ないときでも、いつでも来て頂戴。 家はいつでも大歓迎よ! ねえ、お祖父さん!」 お祖母さんがそう尋ねると、 お祖父さんは一言、 「うむ……」 と言った。 「佐々木君、凄くにぎやかな食卓じゃない! お祖母さんも凄くフレンドリーだし、 明るいじゃない!」 僕が佐々木君に耳打ちすると、 「それは先輩がいるからですよ!」 とまた買いかぶりなことを言ってきた。 僕は、十分会話が成り立って、 明るい食卓だと思うのに、 佐々木君はどんなところを見て辛気臭いと言ってるのだろう? もしかしてまだ帰ってきていないお父さんの事なのかな? そんなことを思っているときにお父さんが帰ってきた。 そこを一番に飛んで行ったのは、 佐々木君のお母さんだった。 「あなた、お帰りなさいませ。 悠生さんのご学友の方がいらっしゃってるのよ」 パタパタとする足音と一緒にそう言った会話が聞こえた。 “佐々木君のお母さん、こんな声をしてるんだ~ 優しそうじゃない……” そんなことを思っていたところに、 彼らがダイニングに入ってきた。 僕はスクッと立ち上がると、 「お邪魔しています。 佐々木と言います。 よろしくお願いします。 失礼して先にお食事いただいています」 そう言って挨拶した。 挨拶を終えてお父さんの顔を見ると、 またまた目が覚めるくらいカッコよかった。 “佐々木家って美男子の遺伝子なのか……” 「佐々木家って凄いね? いい男ぞろいだね? でも佐々木君のお母さんも綺麗だね」 存在感はないけど、夫を称えて、控えめで、おしとやかで、 よく見ると綺麗な顔をしている。 僕がそう言う風に言うと、お祖母さんが、 「そりゃあ、優香さんは旧家の出ですものね。 小さい頃からずっと花嫁修業をして来たのよね。 家にお嫁に来てくださって、私たちは本当にうれしいのよ」 と言った。 「へ~ 君のお母さん、優香さんて言うんだね。 名は体を表すっていうけど、おしとやかで優しくって 本当に名前みたいな人だね。 それに花嫁修業って凄いね。 今でもそんなのあるんだね。 やっぱり旧家のお嬢様は違うね…… って言うことは君にもその血が入ってるんだね。 何だか君を見る目が変わっちゃうや〜 で、佐々木家も旧家なの?  こんな立派な屋敷があるし……」 そう僕が耳打ちすると、 佐々木君のお父さんが急に笑い出した。 僕はまた訳が分からなくて、 「?????」 と言うような顔をしていると、 「失礼。 実は私は養子としてこのうちに来てね、 まあ、分家の身分なのでその血に変わりは無いのだけど私の実母が普通の人でね、 私自身はこの本家の息子にとれば格は下がる訳ですよ」 「え? ここの息子さんって……」 僕がそう尋ねると、お祖母さんが慌てて、 「陽一君は気にしなくて良いのよ。 家の格なんてね、どうでもいい事なの。 別に頭に王冠が載っている訳でもなければ魔法が使える訳でもない。 元を正せば全て平等な人間よ。 皆赤子として生まれ、年老いて死んでいく。 ただそれだけの事。 その中でどれだけの事をやり遂げたか。 それにつきるでしょう?」 と言った。 「そうですね。 お祖母さんの仰る通りです。 でも、この家を維持してるって言うのはやっぱり凄い努力だと思いますよ。 それだけでも僕は尊敬です」 そう言うと、佐々木君のお父さんは、 耳を疑うようなことを言った。 「本当だったら、 君の父親がこの優香を娶って継ぐはずだったんだがな」 「え……?」 僕は佐々木君のお父さんから物凄い情報を聞いたような気がした。 “僕のお父さん? 僕のお父さんが本当はここを継ぐ筈だった? そして佐々木君のお母さん…… 旧家の出身という優香さんと結婚する筈だった? そして佐々木君のお父さんは養子…… それって…… それって……” 僕はお祖父さんの顔を見た。 彼は黙ったままで下を俯いていた。 次にお祖母さんの顔を見た。 彼女は僕を見つめて涙を流していた。 “本当なんだ。 ここがずっとお父さんやかなちゃんに 『近付くな』 と言われたお父さんの実家なんだ” 祖父母にずっと会いたいとは思っていたけど、 ここはお父さんにずっと近づくなと言われ続けた あのお祖父さんの家なんだ…… 僕は佐々木君の顔を見ると、 「ごめん、僕帰らなきゃ……」 そう言って席を立った。

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