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第77話 修学旅行―ホテル
皆でカードゲームをしているときに、
部屋のドアをノックする音がした。
僕たちは4人一部屋に押し込められ、
智君のほか、緒方君、福島君が僕のルームメイトだった。
「見回りかな?
それにしては早い時間だな」
そう言いながら緒方君が部屋のドアを開けた。
開けたまでは良いが今度は勢いよく閉めて、
「ウワ~!」
と叫び声を出して腰を抜かしたようにして戻ってきた。
「どうしたんだ!」
智君がドアをチェックしに行った。
「お~!」
怖いもの知らずの智君まで奇声を上げていたので、
僕らはみなそれぞれの後ろについて怖いもの見たさとでも言う様に
ドアまでソロソロと歩いて行った。
途端、
「陽ちゃ~ん」
と猫なで声が聞こえ、この声は?!
とすぐに誰がドアの所にいるのか分かった。
「え?! 陽一! 蘇我総司と知り合い?!
それに……そちらはモデルのジュリアに大我?
あの有名デパートにでかいパネルが貼ってあったジュリアに大我?!
本物?!」
それがルームメイトたちの一斉だった。
すぐさまジュリアが僕に抱き着き、
「会いたかった!」
との声に、皆の目は飛び出るような勢いだった。
「おい、おい、
蘇我総司といい、ジュリアといい、
陽一、お前何者?」
彼らの問いに、
「陽一は私の遠い親戚よ!」
とのジュリアの告白に、
僕と蘇我総司との関係の問いはすっかりどこかへ行ってしまった。
でもお祖父ちゃんがすぐに、
「陽一君はジュリアについて何度も撮影に来たんだよね!
今日はね、学校に許可をもらって、
この子達の付き添いで来たんだよ。
よろしくね!」
そう言ってウィンクしたので、
何とかごまかすことが出来た。
「陽一ってジュリアの親戚?!」
緒方君と福島君が顔を見合わせて驚いていると、
「久しぶりだな大我」
智君のその声に、
「なんだ? 智樹? お前までも有名人と知り合いなのか?!」
と、またまたびっくりの連続だった。
「いや、基本的にはこいつの恋人と知り合いなんだよな?」
「お前、有名人のプライべートばらしても良いのか?!」
との皆の声に、智君は気にする様子もなく、
「お前らが誰かにバラしても、誰も信じないよ!
それにお前らはそんなことしないだろ? ガハハ!」
と笑っていた。
さすが智君……
「それにしても陽一がこんなフランス人形みたいな女の子と親戚だなんて……
でも言われてみればそうかもな?
陽一だってハーフだって言われれば、見えないこともないよな?」
そう福島君が言うと、
「そうなんだよね~
陽ちゃんのママもハーフみたいな顔してるもんね~」
とお祖父ちゃんが横やりを入れてきた。
「え? 何故蘇我総司がその事知ってるっていうか……
ウワ~ 俺、拍手してもらっても良いですか?
それよりも、サイン良いですか?」
と緒方君もミーハー魂バリバリでお祖父ちゃんにサインをねだっていた。
そしてお祖父ちゃんもお祖父ちゃんで、
「君、一緒に写真は良いの?」
といつものように大サービスをしていた。
「いや~ 蘇我総司がこんな気さくな人だとは思いませんでした!
陽一と同じ部屋にして役得だったな!
もう握手してもらった手は洗えません~」
そう言って緒方君は右手をさすっていた。
「あの…… こちらは如月優さんですよね?」
福島君がお祖母ちゃんに声をかけた。
「君、良く知ってるね!
ティーン達は普通、僕の事良く知らないんだけど……」
「あ…… あの…… 僕、
ピアノをやっていて、
コンサートに何度も行ったんです!
先月に東京ホールで行われたシンフォニーでのソロは素晴らしかったです!」
彼のそのセリフに僕たちは皆、
「え~ 福島君ってクラッシックオタク?!」
と声を張り上げた。
「僕も如月さんのサインいいですか?!」
と福島君が真っ赤になってバッグから取り出したタオルを差し出した。
「そうだね~ 優君のサインは夫である僕の許可を~」
とお祖父ちゃんが馬鹿なことを言ってうちに、
お祖母ちゃんはサッサッサッサとサインを終えてしまった。
「は~ ありがとうございます!
僕、今夜眠れないかも!」
「ハハハ~
大げさだな~」
とお祖母ちゃんは言っていたけど、
お祖父ちゃんは、
「君…… 間違ってもそのタオルでXXXしないように!」
と言って、またお祖母ちゃんに頭をはたかれていた。
「いや~ 蘇我総司テレビで見るのとは大違いでびっくりしました!
フレンドリーだし、下ネタもわかるし、ジョークも言えるし、
好感度ばっちりです!」
お祖父ちゃんは
「いや~ それ程でも~」
とふざけているのか、まじめなのか分からないけど、
緒方君は更にお祖父ちゃんのファンになったようだ。
でも大人たちは、ロケハンの皆との飲み会があると言う事で、
またあとでジュリアと智樹君を迎えに来ると言って出かけて行ってしまった。
二人が出た後、緒方君と福島君は使い物にならないくらい、
どっぷりと自分だけの世界に入っていた。
「今日は葵は来てないのか?」
智君が大我君に訪ねた。
「さすがに東京から出た撮影には来ませんよ。
付いてこれるとすると、良くて夏休みとか、
冬休みの長期休暇の時のみですね。
それも自費なので、限界もありますし……」
「そうか、そうか、
で? 葵とはうまく行ってるのか?」
「ばっちりですよ!」
と、大我君も隠すつもりはなさそうだ。
「木村君、来年になったら直ぐに受験だよね?
最近会ってなかったんだけど、
受験どうするの?」
「ん~ 今の所、葵は専門だってさ。
俺が結婚したら家庭に入ってって言ったら料理を学びに行くって」
そのセリフに僕はピューピューと口笛を鳴らした。
「何だお前、もうそんなとこまで話が進んでいるのか?
呼び方も葵って、もう経験したのか?!
お前、ちゃんと毛は生えてるのか?!
ちゃんと剥けてるのか?!
まだ12だよな?」
「人生設計は早い方が良いんですよ。
そう言う智樹さんこそ17歳なのにまだですか?
もしかしてまだ童貞とか?」
僕は智君と大我君の会話に度肝を抜かれた。
「智君! 大我君、端ないよ!
ジュリアの前でなんて事!」
僕は恥ずかしくって顔を両手で覆った。
肝心のジュリアは持って来たお菓子を頬張りながら、
ミーハーな緒方君とセルフィ―の最中だった。
でもすぐに僕の方を向きなおして、
「陽一は恥ずかしがりすぎ!
大丈夫だよ! 陽一は私が貰ってあげるから!
陽一こそ料理の腕を磨いててね!」
のセリフに、
「何? ジュリアって陽一君とそう言う関係なの?」
と緒方君が突っ込みを入れた。
でも智君にすぐさま遮られた。
「お前、未だそんなこと言ってるのか?
陽一には大切な、大切な人が居るからな。
くれぐれも邪魔するんじゃ無いぞ」
そのセリフに、またまたみんなが、
「え? 陽一ってそんな人がいたのか?
誰だよ? 俺たちの知ってる人?
学園の生徒?」
と興味津々で訪ねてきた。
それにジュリアも、
「ちょっと〜 誰よそれ!」
とお怒りぎみである。
「お前に言っちゃうとさ、
邪魔されるからな〜」
「失礼ね!
邪魔なのは向こうでしょ!
陽一はね、私が赤ちゃんの時からの婚約者なのよ!」
「え? そうなのか?」
智君が初耳と言う様な顔をして僕を見た。
「いや、それはジュリアのパパのポールが勝手に言ってるだけで、
実際は違うんだよ」
僕がそう言うと、ジュリアは
「いや〜
陽一と結婚するの〜!
陽一で無いとダメなの〜」
とワーワーと我儘を言い出した。
「ちょっと、ちょっとジュリア、
お前、煩いよ?
そんなピーピー泣くんだったらフランスへ帰れ、帰れ!」
智君も13歳の子供に対して辛辣な態度だ。
僕は強く言えないから笑って誤魔化してしまうけど、
智君のそんなハッキリしたところは憧れる。
その時、ドアをノックする音がしたので、
今度こそ先生の見回りだと思い
「僕が行くよ」
と、ドアを開けに行った。
ジュリア達は特別許可を取っていたので、
心配はしていなかったけど、
まさか彼が訪ねてくるとは思っていなかった。
「修学旅行中にごめんね。
邪魔しちゃったかな?
ジュリアや大我君もいるって聞いて、
遊びに来たんだけど、入ってもいいかな?」
その声にジュリアが一番に反応して
ドアを方を覗いた。
「あっ、コージ!
智樹がいじめるの〜」
そう言って、不意にやって来た矢野先輩にジュリアが抱きついた。
僕はその光景にビックリしたのと同時に嫉妬の様な感情さえ感じた。
「君たち、いつの間にそんなに仲良くなったの?」
智君が僕の訪ねたかった事を聞いてくれた。
「浩二はね、私の日本での叔父さんと呼んでもいい様な関係なの!
私のピンチにはいつも飛んでくるんだよ!
そう約束したんだから!」
「何だ、オッサン的役割か。
ジュリア、お前、ピンチに飛んでくるって王子様願望か〜?」
智君のその質問に少しモヤモヤとした。
先輩は僕のナイトの筈だったのに、
いつの間にこんなに距離が離れてしまったのだろう……
自分で決めて離れたのに先輩はもう僕のナイトではなくなったの?
いつの間にジュリアのナイトになってしまったの?
そんな時にジュリアが一言。
「陽一は私の婚約者なのに、好きな人が居るって言うのよ!
今それが誰なのか問いただしていたところなの!
ねえ、コージも陽一には誰なのか聞いて!
コージだったら、陽一も正直に話すかも!」
そう来たので僕の心境としては、
「え〜!」
だった。
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