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第79話 修旅の後は冬が来る

楽しかった修学旅行もあっという間に終わり、 クリスマスが近づいていた。 「あのさ、陽一君は今年のクリスマスはどうしてるのかな~ なんて……思ってたりなんかして?」 と城之内先生が遠回しなのか、 遠慮しているのか、 恥ずかしいのか、 僕のクリスマスの予定を聞いてきた。 おそらく僕を誘いたいのだろう。 どうせ今年も先輩は詩織さんとのクリスマスに違いない。 あのクリスマスから、 先輩は僕たち家族のクリスマスには現れなくなった。 僕も高校生になってからは、 友達を優先するようになったので、 結局は同じようなものだったけど、 でも今年のクリスマスは違った。 「今年のクリスマスはですね、 長年会っていなかったお父さんの家族と祝うんですよ。 今から楽しみで…… 楽しみで……」 そう言うと、城之内先生はシュンとしたようにして、 「そっか、そっか~」 とがっかりとしていた。 “本当に結構自由な人だな…… 普通、教師が生徒になんてなると、 教育委員会やPTAが……” と思ったけど、 普通とは思考回路の違う人には普通は適用しないのだろう。 城之内先生は、頭は良いけど、 常識が少し人とずれていた。 でも、変なずれ方ではなくて、 自由に生きているって感じだった。 自由と言っても、他人に迷惑かけるような、 我儘な様な生き方ではなく、 自分の意思をちゃんと持って、 それを貫いているというか、 スマートな生き方と言うか、 きっとアメリカに住んでいた時に そう言った習慣が身に付いたのだろう。 がっかりした先生を横目に、 「でもですね、お昼は開いてますよ!」 と言うと、先生の顔がパ~っと明るくなった。 「じゃあさ、イブのお昼は僕の家に来ない?」 とのいきなりの自宅へのお招きに僕の方がびっくりした。 「先生って実家住まい?」 まさか一人住まいの住居に誘われるとは思ってもいなかった。 「いや、一人暮らしだけど…… 実家の方がよかった? そうだね、良太も帰って来てるしね……」 良太とは城之内先生の弟で、 僕が一年生の時に三年生だった先輩だ。 大我君のモデル事務所の先輩で、 大我君繋がりで知り合ったけど、 結局彼は卒業を待たずに、ポールの伝手を借りて フランスに留学してしまったというか、 フランスのモデル事務所に入って本格的にショーモデルを目指すことにした。 その甲斐もあって、今では世界中で活躍しているけど、 クリスマス、お正月と実家へ帰って来るらしい。 「良太先輩、帰ってくるんですね! 凄く楽しみですね! 僕が最後に会ったのは去年の今くらいでしたからね~」 と懐かしくなった。 でも城之内先生が少しがっかりしている姿を見て、 「でも大丈夫です。 先生が先生のお家に招待したければ、 遠慮なくお邪魔します! 良太先輩にはその後にでも会いに行けば良い事ですし……」 そう言うと、先生は現金にも、 ニコニコとし始めた。 「でも陽一君、前に好きな人がいるって言ってたけど、 その人とは良いの? 確か付き合ってる人がいるって言ってたけど……」 「先生、よく覚えていましたね。 そうですよ。  僕は、彼の眼中にはありません! でも、そんな簡単に諦められる想いでもないし、 時と自然に任せます…… 難しいんですけどね!」 そう言って僕はペロッと舌を出した。 「ク~ 陽一君可愛い! 何でこんな可愛い子に気付かないんだろうね! もったいない、もったいない!」 と、先生の方が悔しそうだった。 きっと僕は、こういった人たちがいつもそばにいるから 救われているのだろう。 そうでなければ、きっと事の重さに、 僕一人では押しつぶされているはずだ。 僕は、何でもポジティブにとらえることにして、 毎日を過ごしていた。 そんな中でやってきたイブの日。 「今日は城之内先生の所にお邪魔してくるね。 佐々木のお祖父ちゃんの所はそこから直接向かうから!」 そう言うと、 「陽ちゃん、ちょっと待って!」 と珍しくかなちゃんに呼び止められた。 「ねえ、最近、城之内先生と良く出かけているけど、 二人はそう言う関係なの?」 といつもだったら口を出してこない事柄にまで 口を出してきた。 「違う、違う、心配しないでって、してないか? 城之内先生はあくまでも、お兄さんのような人だから、 付き合いやすいんだよ! それに僕の悩みなんかも知っていて、 よく相談なんかもするし……」 「でも城之内先生ってα何でしょう? 陽ちゃんの事狙ってるってことない?」 「かなちゃん、それって人権問題発言だよ。 先生は紳士です。 先生が僕を好きになってくれるんだとしたら、 第二次性ではなく、ちゃんと僕と言う人を見てくれてます。 本当に心配しないで!」 そう言ってもかなちゃんは少し不安そうな顔をしていた。 「お兄ちゃん、ママはね、お兄ちゃんの事心配してるんだよ! 運命の番が誰かわかってるのに、 全然けた外れの方向へ進んでいるから!」 僕は分かってることを言ってくる家族に少しカチンときた。 「僕が発情期来ないせいで運命の番にも気付いてもらえないのに、 これ以上僕にどうしろって言うの?! 言うのは簡単だけど、当事者はそれだけじゃないんだ! 分かった風に言うのはやめて!」 そう大声を張り上げると、 「なんだ? 今頃反抗期か?」 とお父さんが寝室から出てきた。 「お父さん、もっと言ってあげて! お兄ちゃんが私とお母さんをいじめるの!」 あ~ちゃんも容赦ない。 かなちゃんはいつもニコニコして優しいし、 いつも僕ら家族の事を考えて行動して、 物腰の柔らかい母親だけど、 お父さんは一筋縄ではいかない。 とにかく、僕らがかなちゃんに反抗すると、 爆弾が落ちる。 早速のお父さんの登場に、僕の身が縮こまるような気がした。 「だって…… 僕……」 そう言ってシュンとすると、 「あのさ、僕が経験したからいうんだけど、 陽ちゃんには自分の出した答えで後悔してほしくないんだよ。 その時ってさ、一杯、一杯だから思考回路も凄く狭くなってるんだよね。 だから、答えは一つだって思いがちになっちゃうけど、 周りを見回すと、本当はそうじゃないことに気付くんだよ。 ねえ、本当に矢野先輩に告白する気はないの?」 僕は深いため息を一つついて、 「僕ね、それとなくそう言う話は矢野先輩といっぱいしてるんだよ。 でも、彼は僕が告白をするとしても、 全く信じる気配がないんだよ。 それにきっと彼は僕には、ほかに好きな人がいると思ってるし、 彼も詩織さんと付き合ってる。 今のこの時点では、僕の発情期が来ない限り、 どうすることも出来ないんだよ……」 「ん~ もう! 陽ちゃんも、矢野先輩も凄いじれったいんだから! 僕が陽ちゃんの代わりに告白出来たら、 今日、まさに今、先輩の所に行って、 詩織さんを追い出して大声で告白するのに!」 とのかなちゃんの言葉に、 「それ、絶対やめてね。 やったら、かなちゃんとは一生口きかないから」 そう言い残すと、 「じゃあ、遅れそうなのでもう行くね」 そう言って、まだ納得してなさそうなかなちゃんを残して、 僕は前もって地図をもらっておいた城之内先生の家までの道を急いだ。 先輩のくれた住所まで行くと、 目の前には空まで続いてるのか?と言うようなタワマンがそびえたっていた。 中に入ると、ホテルのような感じで、 エントランスは赤城家の祖父母の家に似ていた。 入ると、コンサージュが居て先輩の所へ来たことを告げると、 もう伝えてあったのか、スムーズに通してくれた。 エレベーターで上がると、 先生が家の戸の前で僕が来るのを待っていてくれた。 「陽一君!」 そう言って手を振る先生はいつもと違って見えた。 来ている服もラフで、いつものスーツとは違う。 先生と言うよりは、第三者が見ると、 “恋人を訪ねてきた” っていう方がしっくりくるだろう。 「今日はお招きありがとうございます!」 そう言うと、先生は僕を中へと案内してくれた。

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