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デンタル愛でんていてい
※激甘ノロケこめでぃ
* * *
俺は非力だ。何もできない。誰のことも、愛している相手のことも守れない。無能だ。そんな俺が恋人でもいいのだろうか?俺はこのまま恋人でも…
「にゃんかヘン……」
歯医者帰りの彼は頬を押さえて首を傾げている。リスみたいだ。かわいい……じゃなくて、痛みや腫れはないようだが、珍しく何も食べたがらないし、おとなしい。可哀想だ。このままでは飢え死にしてしまう。代われるのなら代わりたいが、現状、俺にできることはない。ただ彼を抱き締めることくらいしか。
「ごへんにゃぁ…」
俺が代われたらいい。入れ替わって、いいや、入れ替わるのは困る。俺は彼の見た目だけを愛しているのではないけれど、さすがに自分の姿に頬擦りをするのは…
しかし、中身が彼ならば意外と……
「ごめんってばぁ」
彼がぐいぐいと俺を引っ張る。かわいい口が何か言っている。キスしたい。俺が代われたらよかった。入れ替わる必要なんかない、彼の痛みや苦しみだけ俺が代われたら。
「うん?腹が減ったのか?スープでも作る?スムージーがいい?ゼリーならあるぞ?」
「ちがう、ごめんって、言っひゃの」
「何が」
「ちょっひょ、今日は、キしゅ、れきないかも…、ごめんなぁ」
ああ…!かわいい。そんなことで絶望しないでおくれ。口にするだけのキスが俺たちのキスではないのだから。彼からされるキスは大好きだが、それだけが俺たちの意思疎通 ではない。
「じゃあ、俺からする」
「え?」
キスだからといって唇にする約束 もない。頬、額、前髪、耳も、俺と恋人のキス。少し子供っぽい?けれどそれで十分だ。今は。だってお互いに好きなことを知っている。付き合ってもまだ片想いしているくらい両想いなんだ、俺たちは。
「お、お前も、にゃんか……ヘンらよ」
真っ赤になってイチゴみたいだ。俺の可愛くて甘いイチゴ。時々すっぱくて、そこも素敵だから仕方がない。
「今日のお前、ゲロ甘……また歯、痛くなりひょぉ……」
俺の愛が彼の白翡翠みたいな歯を痛くするだなんて、そんなことは許されない。俺たちの関係が許されない?駄目だ、俺はまだ彼といたい。俺が歯医者になるしかないのだろうか?
* * *
歯科医が悪いわけではない。
受だからにゃんにゃん言ってるわけではない。
2月22日「にゃんにゃんにゃん」の日は関係ない。
2021.2.22
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