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或るアルバムのスクラップ ※
monogatary.comからの転載。
お題「あと10日で転校するクラスメイト」
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クラスの真ん中で友人たちに囲まれているのは、もうすぐ引っ越しで転校するらしい。義務教育ならとにかく、高校生ともなると次の転入先を決めるのも大変だろう。
彼は人望もあるし、はしゃげる相手も沢山いる。手先は不器用みたいだけれど、自己開示は器用なのだろう。俺とは大違いだった。そういう気性だし、そういう人付き合いだから、彼の転校までのカウントダウンのカレンダーなんてのが仲間内で作られて、数字もデザインも手描きで、綴じ方も。作る側も作られる側も青春だろう。転校後は忘れてしまうくせに……なんて捻くれ過ぎか。それでいい。一時 でも華があれば。俺だって四季折々、暑さも寒さも咲く花も枯れていく花も忘れていくのだから。
だからつまり、離れて別れていく人をいちいち長いこと忘れずに追い求める必要はないってことだ。
掃除当番で、班になった1人が部活の都合で代わりをよこした。それが彼だった。掃除当番なんてハズレ週だろう。しかもトイレ掃除ときた。さらには班員が俺なのだから気拙くないか?よく請け負ったものだな、と俺も「転校」と聞いてから異様に彼を意識した。クラスメイトが欠けるということが、意外と俺の中にも寂しさとして残っているらしい。
仲の良いやつはいないけれど、特別嫌なやつもいない。心地良いことだ。
「―くんとは、あんまり話したことなかったもんな」
嫌味なくそういうことを言えるのは彼の特権だと思う。
「あと休み抜くと10日間くらいだからさ。思い出作りに、あんまり話したことない人たちとも話しておきたいなって」
けれどそれを俺が求めていなかったら?彼等は、だからつまり、人と関係することで癒えるタイプは、そうかも知れないけれど、別れると分かっている相手と話して、分かり合っても、寂しくなるだけだ。
「これといって話すことなんてない」
「そうだよな~。でも、ま、オレの思い出の1ページに残させてよ」
彼は気分を害するでもなく無邪気に笑った。
それが意外にも、俺のほうの1ページになってしまった。話すことなんてなくても。
ニュースのテロップに愕然とした。あの時無邪気に笑っていた彼の名前と、俺と同じ年齢が載っている。見慣れない制服の、知った面構えの写真が俺の人違いでないことを告げている。
当時捻くれたとおり、別れたまま忘れる側になっていたかった。俺なんかの思い出になるなと、あの9日間を捲っては読み返す。
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2022.11.7
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