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第1話
絢爛豪華な城にはきらびやかに着飾った人々が集まり、大広間では楽しげな会話や音楽、ダンスや食事を嗜んでいる。
今日はこの国の王様の誕生日、そして妃選びの日なのだ。
そして他国から来た王様達も妃を選ぶ。
この世界には男女の性別の他、αβΩと呼れる性が存在する。Ωの男性は子供を孕めるし、αの女性は子供を孕ませる事が出きるのだ。
ここ、白の王国は、気候に恵まれ、常夏の楽園と呼ばれている。実りも資源も多く、国民性はおおらかだ。何故か他国よりもΩの誕生率が高く、αは逆に滅多に産まれる事は無い。武力も弱く、魔法等も使えない為に、周囲の国と同盟を組み国を守っていた。
赤の国は武力に優れ、青の国は魔法、緑の国は産業に優れている。
その三つの王国の王はここ、白の国から妃を選ぶ。
こうして白の国は強い権力を維持しているのだ。
「今日はお集まり頂き光栄です。僕が白の王国の王、白亜(はくあ)。この国唯一のαです」
そう自己紹介するのが我が王国の王、白亜。白い正装が似合う。白髪に透き通る様な水色の瞳のか弱そうな美青年である。パッと見、Ωの様な愛らしさである。
「俺は赤の王国の王、紅鳶(べにとび)宜しく頼む」
赤の王国の王は流石武力に秀でた国の王だけあって体格も良く、勇ましい。燃える様な赤い髪に、褐色の肌、瞳は綺麗なグリーンの瞳だ。
「私は、青の王国の王、群青(ぐんじょう)どうぞ宜しくお願いしまーす☆」
青の王国の王は変人と噂されるているが、本当に変人の様である。青く長い髪が綺麗であるが、顔はベールで隠して解らなかった。
「拙者は緑の王国の王、翠(すい)である」
緑の王国は産業に優れている様だが、王は何処か古めかしい。緑の髪を一つに結わえ、瞳はつむっているかの様で、瞳の色までは解らなかった。物腰は柔らかそうだ。
勿論、全員αである。
大広間には我が王国でも選りすぐりの美女二十人と、Ωの美青年を十人用意した。
順番に挨拶させた後は自由に見て貰い、気に入った者とダンスや会話等を楽しんで貰う予定である。
美女とΩ達の挨拶は滞りなくなく終わり、フリータイムとなる。
各々、王の回りに集まり会話に花を咲かせたり、ダンスを楽しみ始めた。
さて我王はどうだろうか。
会場整備から司会進行等、全てを取り仕切るこの国の王の従者である裏柳は当たりを見渡す。
何故か壁の花を決めている白亜を見つける。
「お好みの者は見つかりませんか?」
そう壁の花に声をかけた。
「僕はね、もう決めているから大丈夫だよ」
白亜はそう目の前の従者に答える。
「早い決断ですね。以前から決めていたのですか?」
「うん」
「気付きませんでした……」
笑顔の白亜に、裏柳は複雑な気持ちになる。決まっていたのなら教えてくれたら良かったのにと。
なかなか妃を選ぶ処かハーレムを作る気もなく、女性の影すら無い白亜に裏柳は心配していた。
王は女性やΩに興味が無いのでは無いかと。
あれやこれやしてみたが全部空回りであった。だが、無駄な事をしていたらしい。
それにしても我が王の思い人とは誰だろうか。
全く本当に解らなかった。
「お話ししなくても宜しいのですか? この会場にはおられる方ですよよね?」
王の想い人が居るとは解らず、もしかしたら選考に外れた女性だったかもしれない。
「大丈夫いるよ。ビックリさせたいんだ。だから今は話さないの」
「そんな事言って、他の王に取られてしまっても知りませんよ」
「その心配も無いんだ」
「それなら良いのですけどね」
どうやら相思相愛らしい。どの子だろう。此方を見ている者は数人居るが、話しかけたいが話しかけられ無いとソワソワしているだけに見える。
皆、すぐに他の王の所へ行ってしまった。
「ねぇ、暇だし僕と踊ってよ」
王はそう言うと膝まずき「お手をどうぞ」と言って己の従者に笑顔を向ける。
「や、やめて下さい! 人目があります」
従者を前に王が跪く等、有り得ない事である。慌てふためき裏柳も膝を折る。
「誰も見てないよ。ねぇ、久しぶりにさ。今日ぐらい良いじゃないか。僕の誕生日だよ?」
「解りましたから、膝をつかないでください!」
「君が手を取っ手くれたらね」
「もう」
従者は仕方ないと王の手を取るのだった。
白亜とダンスを踊る従者は、彼の側近である。乳兄弟であり、幼馴染みとして育った。深い緑の髪に、金色の瞳、肌は白の国らしく透き通る様な色白である。お祖父さんが緑の国出身らしく、彼はクォーターだ。気難しそうにいつも堅苦しい眼鏡をしていた。白亜に何度かコンタクトにしてはと言われたが、本人は眼鏡を気にきっているらしい。
その堅苦しい側近を白亜は気に入っていた。
「裏柳(うらやなぎ)」
ステップを踏みながら、耳元で側近の名前を囁く。
「白亜様」
そう小声で己の名前を呼び返してくれる幼馴染みに気を良くする。
誰も見ていない二人だけの秘密の時間の様で、白亜は楽しかった。
「短い時間でしたが、婚約者を決める事は出来ましたでしょうか」
時計の針は深夜の十二時を回った。鐘の音を合図に司会である裏柳がマイクを握る
。
「お決まりになりましたら各王様方は意中の女性またはΩに花を差し出して下さい」
各王は自分の色の薔薇を胸ポケットから抜く。
さて、我が王の意中の相手が漸く解る。
そう思った時である。
フッと電気が消え、辺りが暗闇に沈む。
「何事だ!」
声をあげる裏柳。こんな仕掛けはしていない。停電か?
誰も解っていない様子だ。
素早く指示を出す。
「忙いでブレーカーを、各王を護れ」
指示を出しつつ、己も白亜の元に急ぐ。
徐々に馴れる視界、月あかりが窓から差し込んだ。白い我が王は見つけやすい。裏柳は白亜に手を伸ばした。
だがその手が王に届く前に、誰かに腕を捕まれた。
「宴に俺を呼ばないとは酷いではないか? 白の王国よ」
そう低い声が響く。
黒い何かが裏柳の腕を掴んでいた。
ようやく裏柳の指示に従った者がブレーカーにたどり着いたらしく、電気が点く。
ザワザワと会場が恐怖に支配される。
裏柳の腕を掴んでいるのは鬼の様な角、般若の様に恐ろしい顔をした大男である。
漆黒の闇の様な黒い髪に血の様に赤い瞳。黒いマントに身を包んだその姿は正に悪魔の様だった。
「く、黒の王国の王か?」
裏柳は詰まる様な胸の苦しさを感じつつ、何とか声を出す。
恐怖で震えそうだ。
黒の王国等、本当に存在していたのか?
幻の王国だ。
闇の中、猛獣を侍らせ、魔物を随える魔王の王国。
「そうだ。俺は黒の王国の主、漆黒(しっこく)だ。俺も番が欲しい」
黒の王だと名乗る男はフフフっと不敵に笑っている。
「お誘いできず申し訳ありませんでした。お住まいが解らず……」
お住まい処か存在、それこそ国の場所すら解らないのだ。どうしろと言うんだ。招待状等、全ての手配や準備の指示を出したのは裏柳であるが、落ち度が此方側に有るわけでは無い。そう思うものの、膝をついて頭を下げるしか無い。相手は黒の王国の魔王である。機嫌を損ねれば何をさせるか解ったものでは無い。
「そうだよな。じゃあ仕方ねぇ。許してやるよ。俺も妃を選ばせて貰うぜ?」
漆黒は黒い薔薇を手にしていた。
「ええ……」
裏柳は頷くしかない。会場の美女とΩは恐怖にひきつり、後退りし、視線を外している。
この悪魔に選ばれたらどうなってしまうのか、そう生きた心地がせず、全員肩を震わせていた。
裏柳も申し訳ないが、選ばれた者を助けてやる事は出来ないだろう。
生け贄に捧げる様なものである。
「宴に誘って貰えなかったんだ。俺様から選ばせて貰うぜ?」
そう言う漆黒に更に会場の空気は張りつめる。
「同時にという決まりですので……」
裏柳はそうルールを口にする。被ったら花を受け取った方に軍配が上がる。
「解った。仕方ねぇ」
意外と魔王は物分かりが良いらしく、頷いてくれた。
裏柳はホッと胸を撫で下ろすが、安堵出きる様な状況でもなく、直ぐにまた張りつめる。
「では、王様方、意中の者へ薔薇を差し出して下さい」
裏柳の合図で王は薔薇を差し出した。
「えっ……」
裏柳の目に白と黒の薔薇が飛び込んで来た。
白亜と漆黒が睨み合っている。
「僕はずっと君を想っていたんだ! 裏柳。受け取ってくれるね?」
白亜は真剣な面持ちだ。
そんな風に想ってくれているとは、全く気付かなかった。
裏柳は確かにΩであるが、Ωとしては出来損ないであり、孕めるかどうかも怪しく発情もそうそうしないのである。殆んどβだ。
「俺の方を受け取った方が身のためだぜ」
フフフと笑う漆黒。
脅しの様なセリフだ。
黒の王国を敵に回せば、白の王国所の騒ぎでは済まない。他の国も巻き込んでの戦に発展しかねない。なんせ黒の王国は獣や魔物を操る。無敵の軍隊だ。
歴史を見てもその恐怖は群を抜いている。
「裏柳、君が生け贄になる事などない。僕は戦う。君を守る。だから僕の薔薇を手に取るんだ。迷う必要等ない」
必死に白亜は裏柳を説得しようと手を掴む。
「白の王国の従者よ我々も戦う」
「貴方が犠牲になることはないのですよ」
「黒の王国等こわくはないぞ!」
妃候補を無事に見つけた他の王達も声を上げる。
広間に集まった全員がオー!と声を上げていた。
裏柳は迷った。
それでも震える手は黒い薔薇を掴んでいた。
「裏柳!」
白亜が声を上げる。
「賢明な判断だな俺の花嫁よ」
フハハハハと、高笑いが響き渡り、瞬間に再び明かりが消える。暗闇に乗じて漆黒は裏柳は抱き抱えると、目にも止まらぬ速さでその場をか姿を消してしまう。
「裏柳ーー!! 必ず助ける! 待っていくれーー!! 裏柳ーーーー!!!」
残された白亜の悲鳴の様な叫び声が暗闇に木霊するのだった。
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