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第59話
漆黒は家臣たちからの後押しもあり、決心を固め、今夜、裏柳に会いに行く事に決めた。
フラミンゴが新しく仕立てたくれたお洒落なローブを纏い、髪はいつもの鈴のついた簪で結い上げた。もし忘れられていてもこの鈴の簪を見て思い出してくれたら良いと願いを込めた。
ワニが作ってくれたケーキと、薔薇の花束を持つと、裏柳の住む小屋に向かうのだった。
裏柳は黒柳を寝かしつけ、自分も寝ようとベッドに横になった。
「ママ〜」
「あれ? 起きちゃったのか?」
折角寝かしつけたのに、直ぐ起きてしまう黒柳。いつもは直ぐに寝てくれるのにどうしたのだろう。
「パパ……」
「こんな夜更けに?」
こんな時間に来るのは珍しい。
コンコンとドアをノックされて驚く。
え?
ここに来て来訪者があったことは無いのに……
風がドアを鳴らしたのだろうか。
そう、思った。
コンコン
だが、またノックの音が聞こえる。
「パパ」
「パパなの?」
黒柳が言うからには漆黒なのだろうか。
いや、もしかしたら白亜に見つかったのかもしれない。
ビクビクしながらドアに寄る。
「誰?」
ドアは開けずに確認する。
「俺だ。解るか?」
そう向こうから不安そうな声が聞こえた。
漆黒の声だ。
「もう! 来るの遅い!! しかも、こんな時間に来て!!」
裏柳がドアを開けると、驚いた様子の漆黒が立っていた。
「俺の事、解るのか?」
「解るよ。漆黒だろ?」
フッと笑いかけると、漆黒はボロボロ泣き出してしまう。
裏柳もつられて涙がこみ上げてきた。
「もっと早く来てよバカ!」
「ごめん。忘れられてたら、怖がらせたらと思ったら来れなかった….」
ポカポカ胸元とを殴る裏柳を抱きしめる漆黒。
「意外と臆病者なんだから!」
アハハっと笑う裏柳に漆黒もつられてハハっと笑う。
「パパ?」
グイグイとローブの裾を引っ張られた。
「おお、我が息子〜」
漆黒は黒柳を抱き上げる。
「わぁ〜パパ美人!! いつもの顔と違う!!」
「お前は俺が見えてたのか? 凄いな。あれは仮面なんだ」
「パパ好き!」
「俺もお前が大好きだぞ〜」
頬にチッチュとキスする姿は裏柳から見ても微笑ましい光景である。
「名前は何とつけたんだ?」
「黒柳にした」
「覚えててくれたんだな!」
二人で考えた名前を付けてくれたんだと、漆黒は喜ぶ。
「そうだ裏柳。誕生日だ? おめでとう。ケーキと薔薇だ」
「俺、誕生日だったのか」
忘れてた。
「ケーキは明日の朝皆で食べようか。一晩ぐらい泊まって行けるだろう?」
「ああ」
裏柳は保管庫に入れる。洞窟から持ってきたドライアイスを詰めてある。
受け取った薔薇は花瓶に入れた。
カードが付いている。『誕生日おめでとう。愛してるよ』と、ストレートに書いてあった。
凄く嬉しい。後で額縁に入れて飾ろう。
「今日は三人で寝ようか」
黒柳もすっかり漆黒になついている。
裏柳は床に布団を敷くと、川の字になって寝る事にするのだった。
「毎年会いに来るよ」
「うん、黒柳の誕生日に来てくれ」
「三人でお祝いしような」
そう約束した。
そして、その約束はきちんと十年続けられるのだった。
そして、十年後。
三人は黒の王国で幸せに暮らす事になるのだ。
了
最後まで有難うございました。ここまで読んで頂き、有難うございます。
鱒
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