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6.香水4

* 「晴ちゃん、落ち着いた?」 「うん……ごめんなさい、姉さん」 「いいのよ。晴ちゃんは可愛い弟なんだから。可愛いから香菜子もいじめたくなっちゃうのよ。反省してたからの、許してあげてね」 「うん……」  簡易キッチン付きの広いツインルーム。片方のベッドに2人で寄り添いながら座る紗香と晴太郎。部屋は3人だけで、黒木は会場に戻ってしまった。晴太郎はだいぶ落ち着いた様子で、紗香と何やら話している。  紗香を見ていると、やはり彼女はすごいと七海は思う。晴太郎が生まれた頃から一緒に居て、姉でありながらも亡くなってしまった彼の母の代わりも担っている。晴太郎だけでなく、他の兄弟たちにも慕われている理由も明白だ。   「紗香様、これを」 「ありがとう、七海」  冷たい水で濡らしたタオルを紗香に渡す。準備する様に言われていたものだ。  紗香はそれを晴太郎の目元に当てて冷やそうとする。 「ほら、晴ちゃん」 「わっ、それくらい自分で出来るよ!」  何もせずに二人の仲睦まじい姿を見つめているのはなんとなく気が引け、何か温かい飲み物でも用意しようとキッチンへ行こうとする。 「七海」  晴太郎に呼び止められ立ち止まった。七海を呼ぶ声は、弱々しい泣き声ではなくいつもの凛とした晴太郎の声だ。 「おまえは、ずっと俺と一緒に居てくれるよな?」  凛としていたが、少しだけ声色に不安が混じっている。  晴太郎は稀に、七海に対してものすごい執着心を見せる。それは決まって、今日のように誰かに七海を取られそうになった時に表れる。それが友愛なのか親愛なのか、はたまたそれ以上の感情による物なのか、今の七海には分からない。  今のように晴太郎が不安に押し潰されそうな時、どんな言葉が欲しいのか七海は知っている。 「もちろんです。私はどこにも行きませんので、ご安心を」  七海は晴太郎の前に跪き、彼の手を取り頭を下げた。 「私のすべては、貴方のものです」  これは紛れもない七海の本心だ。  出会ったあの時、七海がどん底で迷っていたあの時、救いの手を差し伸べてくれたのは晴太郎に七海はすべてを掛けて尽くすと決めた。  だから彼から離れるなんて選択肢は、七海の中には存在していない。七海が他人に奪われる事なんて、絶対に無いのだ。

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