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14.晴太郎の音1
七海は意外とよく泣く、と晴太郎は思う。出会った日もめちゃくちゃ泣いていたが、一緒に暮らすようになって、よく泣いている姿を見せた。
晴太郎よりずっと歳上で、兄たちよりも背が高くてよっぽど大人っぽいのに。
泣き虫、というよりは涙脆いという方が合っている気がする。まだ晴太郎が幼い頃、晴太郎に付き合って一緒に子供向けアニメを見ていた時も友情が芽生えるシーンで泣いていた。特撮ヒーローものの最終回を見た時も泣いていた。あとは、晴太郎が学校で七海の作文を書いた時も泣きながら読んでいた。
七海が泣いているのを見ると、どうしてか晴太郎も泣きたくなってしまう。出会った日もそうだったが、よく一緒に泣いていたと思う。
あれはまだ晴太郎が小学生の頃。一緒に特撮ヒーローの映画を見に行った時のことだ。
「ママ、どうしてあのお兄ちゃん泣いてるの?」
「こらっ、指を差さないの!」
映画が終わった後、やはり七海は泣いていた。そして晴太郎はもらい泣きしていた。殆どが親子連れで溢れた映画館。大人の男性が涙を流しているのは珍しいようで、七海は子供たちの注目の的になっていた。
「……ぐずっ、ななみぃ、なんで泣いてるんだよー」
「……っ、だって……レッドとピンクが結ばれるなんて……ブラックが報われない……坊ちゃんだって、泣いてるじゃないですか」
「うっ、これは……お前が泣くから……!」
晴太郎だって別に泣きたくて泣いている訳ではない。七海が泣いてると、何故か涙が伝染するのだ。本当に不思議でならない。
ふたりで泣いて歩くのは流石に恥ずかしい。とりあえず近くのベンチに並んで座り、涙が引っ込むのを待つ。
「……坊ちゃんが泣くのは、私のせいなんですか?」
「そうだぞ! 七海が泣くから悲しくなるんだ!」
「では、私はこれから坊ちゃんの前で泣きません」
「えっ?」
急にどうした、と目を丸くする晴太郎に七海は小指を立てて手を差し出して来た。
「約束します。坊ちゃんが悲しくならないように、私はあなたの前で泣きません」
「……本当に、出来るのか?」
「はい。指切りしましょう」
晴太郎も七海と同じように小指を立てて、指切りをした。
この約束をした日から、晴太郎は七海の涙を見た事がない。
こんなどうでも良いような約束でも、七海は律儀に守ってくれる。ーー彼のそんなところが大好きだ。
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