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16.幸せのため1
「行ってきます!」
「行ってらっしゃいませ、晴太郎様」
クリスマスパーティの次の日、いつもの平日の朝が訪れる。
昨夜、晴太郎と互いの気持ちについて大切な話をした。七海はこの話題からずっと逃げていたが、しっかり彼と自分の本心と向き合って、彼に七海の気持ちを伝えた。彼も納得して七海の考えを理解してくれた。おかげで互いに良い朝を迎えられたと思う。
晴太郎が好きだという自身の気持ちを受け入れてから一晩過ごしたが、寝ても覚めても考えるのは彼のことばかり。
今朝なんて弁当を作る時、何を入れたら彼が喜んでくれるだろうかなんて、まるで新妻のようなことを考えてしまった。そのせいか弁当の中身は彼の好物ばかりになってしまう結果に。
いつの間にか“坊ちゃん“呼びではなく“晴太郎様“呼びに慣れてきた。彼は様と付けられることを嫌がっているが、流石に呼び捨てはできない。いくら彼が良いと言っても主人で恩人で、七海にとっては神と等しい存在なのだ。
けれども、いつかそのように呼べる日が来たら……なんて思っている。朝から相当浮かれているようだ。まだ冬になったばかりだというのに、七海の周りだけ春を迎えてしまっているような気がする。
これから仕事に行くのにこんな浮かれていては駄目だと気を引き締める。ぱちん、と両手で自身の顔を叩いた。駅のロータリーから車を発進させて会社に向かう。
会社について地下駐車に車を止めたちょうどその時、スマートフォンに1件の着信が入る。
画面に表示された名前は『中条風太郎』。彼から電話なんて珍しい。どうせ会社で会うのに、何か急用だろうか。
「はい、七海です」
『もしもし? 七海、今どこ?』
「今は会社の駐車場ですが……」
『よかった……今から総務部のフロア行くから、待ってて。誰かに呼ばれても行っちゃ駄目だから』
「はい? それは、どういうこと……」
『会ったら話す。じゃあ』
ぶつり、と電話が切られる。風太郎は何かものすごく焦っていたように感じた。いつも冷静な彼が取り乱すなんて、いったい何があったのだろうか。
何かトラブルだろうか。開発部のトラブルは、ネットワーク関係など自分たちでどうにも出来ないものが多いので大変だ。
しかし、そのようなトラブルが起きた時、風太郎が七海に直接連絡したことがあっただろうか。ーー何か嫌な予感がした。
エレベーターで地下駐車場から総務部のフロアに上がる。
「七海」
エレベーターを出てすぐの場所で七海を呼び止めたのは風太郎ではなく、副社長秘書の高嶋だった。
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